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「……そんなこともあったな」 「ぶー、覚えてないの?」 「覚えてねえとは言ってないだろ。毎回毎回泣きやがって」 稜も覚えていたらしい。まあ、あれだけ迷惑をかけられておいて覚えていないという話も変だとは思うが。 「……りょお」 「あ?」 「今日はえっちなことしないの?」 セックスを知りたての子どものような口調でそう言うと、ほんの少しだけ稜が目を瞠る。 もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。 そう思い目を閉じると、閉じた瞼に優しくキスが降ってきた。びっくりして目を開けると、無表情の稜が見つめてきた。 「りょう」 「おまえが言ったんだろ」 その言葉のすぐあとに、頬や耳の横にくちびるをちゅっと付けてくる。

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