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「でもさ、ずっと一緒にいるのって疲れない? 会話続く?」 「結構続くし、疲れない。あいつには気い遣う必要ないし、稜もたまーに話振ってくるから」 「へえー。なんかあれですね。お互いになくてはならない存在っていうか」 なくてはならない存在。確かにそう言われてみればそうかもしれない。 稜だって橙里がいないと困るだろうし、橙里だって稜がいないと困る。 互いにとっての互いはその相手しか存在しなくて、稜を他人に置き換えたら、と想像すると寒気がする。 稜が相手だからこの歪な関係は成り立っていて、稜じゃなかったら今頃橙里はどうしていたのだろうか。 もし橙里がレストランに行っていなかったら。もし稜が声をかけてこなかったら。もし高校生のとき、稜のことを止められずに稜が本当の不良になっていたら。 ……もし、あの夏の日にキスをされていなかったら。 今思えば、そのキスで全てが終わり、全てが始まった。 「なんか、今までは稜が普通だと思ってたけど、稜が違うんだな」 「まあそうだよね。無愛想だけど優しいんでしょ? そんな人とずっと一緒にいたらそりゃ感覚も麻痺するよね」

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