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確かに、無愛想で優しい。
橙里が中学生のとき、高校生くらいの男に襲われかけたことがあった。
路地裏に連れられ、無理やり服を脱がされそうになったときに稜が助けてくれた。一人で何人も相手をして、少ししか怪我をしていなかった。
そのときのことは今でも感謝しているし、本当にありがたいと思っている。
「その幼馴染はさ、誰にでも優しいの?」
「……誰にでも? うーん……どうだろ。稜と仲良くしてた人が僕以外にいたかどうかもわからない……」
「じゃあ、ももさんが特別なんじゃありません?」
橙里が、特別。
その言葉の響きは魅力的ではあるが、橙里自身あまりいいとは思えない。
何故なら、そう思うことによって学生時代感じた黒いものが溜まっていく気持ちをまた味わってしまうのでは、と思うからだ。
そう思うことによって稜に嫌な思いをさせてしまい、また迷惑をかけてしまう。
「……特別とは言えど、完璧な特別ではないよ」
小さな声で呟いたつもりだったのに二人にはばっちり聞こえていたようで、羽村が苦笑した。
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