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女も男も幸せそうな顔をしていた。まるで、今を思いきり楽しんでいるかのような。
でも、どうしてもこの先のことを想像してしまう。それは他人事でも、私情でも。
この先他に好きな人が出来たらどうするのだろうか、とかずっとその人と一緒にいれる確証はあるのだろうか、とか。
稜と同居する期間も、永遠というわけではない。始まれば、いつか終わるものだ。
──いつ、終わるんだろう。
考えたくないことだが、いつかそれはやってくる。でも、それがいつになるのかはわからない。
巻いているマフラーをぎゅっと握りしめ、寒さに耐えていると後ろから声をかけられた。
「……おい」
「はうっ!」
耳元で囁かれ、不意打ちだったため変な声が出てしまった。稜がうるさそうに顔を歪める。
「うるせえ」
「だったらこんなことしなければいいんだよ!」
「……嫌だったか?」
「なんかぞわぞわするからやめて」
耳の裏を擦りながらそうやって言うと、僅かだが稜の口角が上がる。
それは本当に僅かで、他人から見たら絶対にわからないだろう。
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