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稜が手を離し、歩き出して行ってしまう。 そのあとを小走りで追うと、稜が盛大に舌打ちをしてきた。 「……えっと……なんか変なこと言いましたかね」 早歩きをしながらそう聞くと、稜が何故か口元を手で隠し、顔を隠すように目を逸らした。 「……」 「稜さん?」 「おまえの口を縫ってやりてぇ」 「ちょっ、そんな怖いこと言わないで……稜ならやるでしょ」 「麻酔は打ってやる」 「わー優しい」 棒読みでそう返すと、稜がようやく橙里の方を向いた。暗くてよくわからないが、少しだけ顔が赤くなっていたような気がした。 改めて稜の腕をきゅっと掴むと、今度は離されることはなかった。 息を吐き出すと白い息が出る。それは、どれほど空気が冷たいかを表していた。

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