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壊れ物を扱うように優しくキスをされ、不思議と足りないと思っている自分がいた。 もっと深くキスをして欲しくて、稜の首に腕を絡ませる。つま先立ちをしながら自ら稜の口に舌を捩じ込んでいくと、稜が橙里の足を掴んでくる。 腰に絡ませておくように動かされ、稜が限りなく低い声で「捕まってろ」とだけ言ってから橙里の尻を掴み、腕だけで持ち上げてきた。 「んっ、んふっ……ぅんっ」 稜が歩く度に鼻から抜けるような声が出て、必死に稜に縋り付いた。 連れてこられたのは寝室で、稜がデスクライトだけ付ける。そのおかげではっきりと顔を見られるわけではないが、いつもより稜が大人びて見えてしまう。 「……シャワー……」 「あとでいい。今は……」 こっちだろ。 その言葉だけ吐息混じりに、耳元で囁かれる。 それだけで小さく声を出してしまい、橙里はそれが恥ずかしかった。 どうにか声を抑える方法がないものかと室内を見渡すと、窓際に置いてある黒いネクタイが目に入る。 ──これだ!

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