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「……稜?」 「あら?」 そのまま稜が扉を開け、中に入ってきた。髪が少しだけ乱れていて、急いでやって来たということがわかる。 橙里が泣いていると思いやって来たようだ。自分の幼馴染は本当に優しい。 「……あ」 稜が幹に気付き、罰が悪そうに髪を掻いた。 幹がいるとは思わなかったらしく、帰ろうとしたそのときに幹が稜のことを引き留める。 「ちょっと! 髪乱れてるじゃない!」 「……は?」 「ももちゃん、直してあげなさい! セット代はアタシが負担してあげるから!」 「ええっ?」 幹が稜の背中を押し、鏡の前の椅子に座らせて手際よく準備をしていく。 稜に客の振りをさせることによって、直接話す場を設けてくれたらしい。稜もそれを察したようで、されるがままになっている。 ──幹さんって意外といい人なんだよな。

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