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黒いスーツに着替えたあと、何分か雑談をしてから車で葬儀場に向かった。その間、稜と言葉を交わすことはなかった。
葬儀場に着き、様々な人と挨拶をしている間も近くに居るのに喋ることはなくて、気付けば葬式が始まる時間になった。
稜の隣に座ったものの少し居心地が悪くて、なんとなく息苦しかった。今まで稜の隣にいて苦しいと思ったことなんてないのに、自分が明らかに可笑しいと思った。
葬式中、涙が出そうになるのを必死で我慢していると、左膝に手が置かれる。
少し角張った長い指はどう見ても稜の手で、そこから滲み出る稜の優しさがとにかく嬉しかった。
葬式後、なんとか涙を我慢し終えて息を吐くと、稜が椅子から立ち上がってどこかに行ってしまう。
──まあ、そうだよな。
突き放すような稜の態度に、橙里は当然の仕打ちだと思った。稜からしたら嫌なことを言われた張本人とは話したくないと思っているだろうが、きっと学生時代なら橙里がすぐに謝れた。
でも、謝るという行為に至れないのは、空白の時間の間になにがあったのか把握出来なくて、自分の知らない稜が次々出てくることを恐れているから。
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