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稜がブラシを動かす手を止め、柄の先端に顎を乗せた。 そのままじっと見つめてきて、つい橙里も手を止めてしまう。 「……なに?」 「なんだと思う?」 「……えっ」 質問に質問で返され、思わず言葉が出なくなってしまった。いや、それよりも稜の視線が真っ直ぐすぎて声を出せなかった。 「わかんない」 「……は、いつもだったらムキになるくせに」 稜が乾いた笑みを零す。そこに揶揄はなくて、単純に余程橙里がショックを受けていると思っているらしい。 実際その通りなのだが。 「おまえはさ、知りたくねえの?」 「なにが?」 「なんで俺がキスしたのか」 「……っ!」 その顔と声ですぐわかった。 稜が言いたいのはきっと十数年前のあの夏の日のこと。日差しがやけに強い日だった。 どうしてキスしたのか。そんなこと、知りたいに決まっている。ずっと疑問だったからだ。

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