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「……ど……して」 声が震える。どうして今になってそんなことを言うのか。橙里だって、ずっと知りたかった。 稜がゆっくりと近付いてくる。掃除は粗方終わったのであとはお湯を張るだけなのだが、当然拒否することなど出来ない。 「どうして? ……知りたいか」 今までの顔と明らかに違う顔で、稜がそう言ってきた。 違う顔、というのは見たことがないような顔で、言葉で表現するのはかなり難しい。強いて言えば、真実を言ってしまうと全てが終わってしまうような。そんな顔。 どうして、そんな顔をするのだろうか。 「……知りたいって言ったら、教えてくれる?」 「おまえがそう思うならな。無理して聞かなくてもいいし、なにより今の俺たちに需要があることでもない」 「じゃあなんで言ったんだよ」 「おまえ、気になってたくせに全然聞いてこねえだろ。顔に出まくってんだよ」 稜が呆れたようにため息を吐いた。その顔を見て、橙里は悟る。 今聞き逃したら、二度とわからないかもしれない。何故キスしたのかは、稜しか知らないことなのだ。

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