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「こいつの話を聞いてましたね」 「……それだけ?」 「……それだけ、とは」 心理戦で言えば稜はかなり強い。相手の伺いたいことを見透かせないようにして、自分は揚げ足を取るように責めていくのだ。これは、学生時代に培われたことだった。 稜はどうやって千咲に説明するのだろうか。少なくとも千咲は橙里に対して僅かながら怒りを覚えているはずだ。 「キスしようとしてたよね。あれはなんで? あたしからしたら、普段からしてるように見えたんだけど」 「……」 「ねえ。どうなの? 橙里のことを弄んだりしたら許さないからね」 その千咲の言葉を聞いて、橙里はハッとなった。 千咲は橙里に対して怒っているのではない。稜に対して怒りが沸いているのだと。 千咲は橙里のことを心配してくれているだけなのだ。 稜はどう切り抜けるのか。 「弄んだりしてるつもりはないです」 「じゃあなに?」 「男同士とか、そんなこと関係なしに、真剣に」

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