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稜が言っていることの意味がわからなくて、そう訊き返す。 「……じゃあ、イエス寄りとでも言っとくか」 「え?」 「今はそれしか言えない」 今はな。 稜が悪戯な笑みを浮かべてそう付け足した。その顔が丁度爽やかな朝日に照らされ、今まで見た顔の中で一番男前に見えてしまった。 ──おかしい。こんなこと、今までなかったのに。 心臓が今までにないほどに体内で主張し、どれだけ自分が稜に惑わされているのかがよくわかる。 基本的に人を恋愛的に好きになったことがなかった。だから、この歳にしてほとんど初恋のようなものなのだ。いや、本当はずっと稜のことが好きだったのかもしれないが。 心の中で、小さく稜に謝罪する。 どうしようもなく好きになってしまって、ごめんと。 そう思っていた橙里には、聞こえなかった。稜の限りなく小さい声の呟きは。 「……別に、嘘じゃねえけどな」

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