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瀬島の言葉に、矢本が頭を掻いた。 「冗談だよ。もうすぐオレ休憩終わるし、使えば?」 「……どーも」 「ももちゃんの相手してやるんだよ」 呼び方が元に戻ったのを残念に思いながら瀬島のことを見送った。 瀬島が座っていた椅子を動かし、橙里の前に矢本が座る。机に弁当を置いてから橙里のことをちらりと見てきた。明らかに戸惑っている。 「……どうしたの? あの人に泣かされたのかよ」 「いや、僕が勝手に泣いただけ」 「ふーん……これで目え冷やせば」 矢本がタオルに包まれた保冷材を渡してきた。 「ありがとう」と言いながら受け取り、目の辺りに当てた。ひんやりとした保冷材が火照った顔を鎮めてくれるようだった。 「じゃあ、なにがあったの? 話せないなら無理に話さなくていいけど」 「いや……おまえ、同性愛に偏見ある?」 「偏見って……別にないけど。もしかして、男好きになった?」

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