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『稜って好きな人いないの?』
『……は?』
高校三年生の春。教室で二人きり、受験勉強をしていたときのことだった。
桜が美しく舞う頃。二人とも子どものようなあどけなさが残る顔だった。
『……いるよ』
『えーっ。誰?』
『言わねえよ、馬鹿。ここの計算間違ってる』
『おまえ話を逸らすな……って、マジで違うじゃん』
互いに向き合い、二人で過ごせるひとときをゆったりと過ごしていた。橙里の左手と稜の右手が重なる。
稜の手は少しひんやりしていた。
『これでいんじゃん?』
『……ん』
稜が頷き、また教室の中に温かい風が吹き込んでくる。稜がその風に煩わしそうに目を眇め、二人きりの空間を邪魔されている錯覚に陥っていた。
橙里が机に頭を近付け、稜が橙里の手元を覗き込む。漆黒で艶のある髪と、明るい栗色の髪が絡み合い、さらさらと混ざる。
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