356 / 527
[19]-3
急いで着替え、稜が用意してくれたパンを齧る。するともう一度戸園からメッセージが届いた。
『え、嘘。大丈夫ですか?』
そこまで気まずくはないのだが、かなり心配してくれている。携帯片手にニヤニヤしていたからか、通りがかった稜に不審そうに声をかけられてしまった。
「……なにしてる?」
「あー……なんでもない。もう行けるよ」
このやりとりを見られたら終わる。必死に携帯の画面を隠すと、更に不審そうな目で見られた。
そんな視線から逃げるように部屋を出て行き、玄関に行って靴を履く。稜が洗面所に入り、なにかスプレー缶のような物を手にやって来た。
「……稜?」
「いつも付けてるだろ。忘れてる」
「あーそうだった」
前を見据え、頭を動かさずに静止する。稜がスプレーのミストを頭に満遍なく振りかけてきて、ふんわりと柔らかい香りが鼻を突き抜けた。
香り付け用のスプレーだった。
「稜はいいの?」
「いい。料理扱ってるしな」
「そっか」
立ち上がり、稜が靴を履くのを待つ。やや広めの玄関でも男二人が立つと窮屈で、早く出てしまおうと思っていると服の襟を掴まれる。
急な圧迫に驚いて稜の方を振り向くと、触れるだけの啄むようなキスをされた。
「んっ」
「……」
ともだちにシェアしよう!