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稜の顔が何食わぬ顔で離れていき、橙里は少しだけ顔を赤くさせる。 「行くか」 「……うん」 久しぶりに触れるだけのキスだ。いつもは濃厚すぎて胸焼けしてしまいそうになるが、逆にそれに慣れてしまうと物足りなさを感じてしまう。 稜のあとをついて行き、稜が施錠を確認したところでまた歩き出した。 特に会話をすることもなくマンションから出て、少し歩いてから稜がふと呟く。 「……明日誕生日だな」 「えっ、稜が?」 「馬鹿、俺じゃねえ。おまえが」 「ほんとだ。すっかり忘れてたわ」 稜より一日早く三十四歳になる。もう三十四年も生きたのか。早いものだ。 「やばいな。四十路まっしぐらじゃん」 「まだ平気だろ」 「えーそうか? 三十五になったらもう四十路だな」 「意味わかんねえ」 稜が微笑む。それは本当にわかるかわからないかくらいなのだが橙里にはわかる。だって、ずっと見てきたから。 誕生日プレゼントとか貰えるのかな、と考えていると稜が橙里の顔をじっと見てくる。それに応じるように稜のことを見ると見つめ合うような形になり、橙里は斜め下に目線を下げた。

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