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まず、矢本が櫛を使って髪を解してきた。今日はワックスなど特に使っていないので、さらさらと引っかかることなく通ってゆく。 「百川さん、髪綺麗だね」 「そう?」 「あー確かにね。触り心地いいよね」 瀬島がにっこりと笑いながら意味深に言ってくる。矢本が少しばかりその言葉に反応したが、特に気にすることなく再開した。 ある程度櫛が通ったところで、矢本がカット用のハサミを手に取った。 「本当に切るよ? いい?」 「いいっつってんだろ」 「じゃ、襟足切るね」 矢本が後ろに立ち、慎重に切っていく様子が鏡越しに見える。瀬島と戸園も後ろに行き、矢本が切る様子をじっと見ているようだった。 まあ、手つきは悪くない。 震えているわけでもなく、本人も言っていたように手先は器用な方だ。 一通り切り終わったらしく、矢本が「ふう」と息を吐く。 「へー、上手だね」 「こういうのってがたがたになりがちですけど。ええ感じやな」 瀬島と戸園も矢本の切りっぷりに感嘆した声を漏らす。二人がそう言うということは、矢本はかなり腕前がいいのだろう。

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