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「次はどうすればいい?」
「そうだね……ちょっとトップの毛の量を減らそうか」
「減らし過ぎないように気ぃつけて下さいね。減らしすぎると不格好になりますから」
「うん」
やりとりがなんだか微笑ましくて、つい口が緩んでしまう。三人とも橙里の髪しか見ていないからだらしない顔を見られることはなかった。
矢本が橙里のつむじ辺りの毛を次々と空いていく。その手つきは洗練された美容師のようにスムーズで、橙里も感心した。
「……慣れてるな」
「結構カットモデルとか見つけて練習してるから。上手いでしょ?」
「自分で言うな」
つい苦笑してしまった。でも、そう言うだけあって手練ている。
ふと瀬島のことを見てみると、最早橙里の髪など一切眼中にない様子でカットをする矢本に釘付けのようだった。
──まあ、好きな人のことを見ちゃうのはわからなくもないけど。
橙里も稜のことをよく目で追ってしまっている。その為人のことは言えないのだが、当然自分のことは棚に上げた。
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