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幸いこちらには二人とも気付いていない。矢本の声色だけで、どれだけ瀬島に対して本気かどうかがわかる。 ──甘くて、酸っぱい。 想って想われて、紡がれていく。自分たちも、そうなのだろうか。 子孫を残すことは出来ない。自分たちの愛の証を、生命という形で残せない。それを覚悟して、同性同士本気で恋愛する必要がある。 誰が決めたんだろうね。男と女じゃないといけないなんて。 瀬島の声が蘇る。 オレはそういう下らない幻想ぶち壊してやりたいんだけど。 下らない、幻想。 ──ねえ、瀬島さん。 目の前で抱き合う二人を見て、心の中でそう呼びかける。 僕が本当は人の心を弄ぶ酷い人間だと知っても、優しく接してくれるのかな。 それは、悲痛に近い叫びのようなものだった。

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