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言われてみれば、周りの人間はあまり丁寧に手を合わせたりしないのかもしれない。言ったとしても「いただきます」くらいか。 ソースがかかった肉を一切れフォークで刺し、小さい口の中に入れる。すると芳醇な味が口中に広がり、柔らかい肉がほろりととろけた。 「んー……」 美味しい。 目を細めて咀嚼していると、またもや見られる。 視線が痛くてまた見つめ返すと、戸園と瀬島が項垂れた。 「……あかん。かわいい」 「やっばい……破壊力……」 それどころか、矢本も反応した。 「落ち着け……相手は三十路……三十路……」 肉を飲み込み、ワインを口に含んでから橙里は口を開けた。 「さっきからどうした? 変だぞ」 「やだわあ、ももちゃん。自分がとってもかわいいことしてるのに気付かないの?」 「……かわっ……」 「あら、気付いてないの! ああん、もう食べちゃいたい!」 「はっ!?」

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