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「おまえもこのワインも、絶品だろうな」 「……ぅー……」 「ん?」 橙里の異変に気付いたのか、稜が橙里の顔を見た。まだ頬はふくらませたままで、子どもみたいな顔をしながら稜のことを見つめる。すると、稜が片手で橙里の両頬をぎゅっと掴んだ。窄めた口から空気が逃げ出す。 「どうした?」 「いや……ワインのことばっかなんだなって」 「……へぇ」 橙里の言葉に、稜が目を細めた。 かと思えば橙里のことをぐっと引き寄せ、そのまま抱き締める。 急のことに驚いていると、耳元でそっと囁かれた。 「嫉妬? かわいいな」 「ちょっ……」 「手を出せないのが残念だけど。明日食い尽くすから我慢してるんだよ」 つい、甘えるように稜に抱きつく。 稜がそれに応じるように更に抱き締める力を強くして、その心地良さに橙里は笑った。 稜も戯れるように橙里の頭に顔を近付け、感触を楽しむように顔を動かした。 今日は、恐らく人生で最高の誕生日だろう。

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