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「あの……さ」 『うん』 「今日、僕先に帰ってもいい?」 『いいけど……どうして?』 誘うとしたら今しかない。 でも、豆腐メンタルの橙里にそんな高難易度のことが出来るはずもなくて。 「その……色々、準備したいから……」 ごく普通の言い方になってしまった。この台詞を言うだけでも顔が火照ってしまう。 電話越しだからはっきり声は聞こえているし、顔も見られたから赤くなったことも丸わかりだ。 だが、稜は馬鹿にすることなくやや慈愛に満ちた顔で橙里のことを見つめた。 『わかった』 「……うん」 『じゃあ、少し遅れていくから。それまでに準備済ませとけよ』 「はーい」 『……はは、なんだその返事』 ──笑った!? 普通に稜が笑っている。恋人になっただけでこんな稜が進化するものなのだろうか。 今の稜の顔と、幼いときの稜の顔がぴったりと重なる。 なんだか、子どもの頃に戻ったような気分になれた。

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