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なんとか我慢しようと上を向くと、矢本の顔が入ってくる。 なにを言うのかと思い、そのまま見つめると矢本がふっと笑った。 「そんなに泣きたいなら、稜さんに慰めて貰えばいいじゃん」 「……ちょっ……」 客の前でなにを言っているんだ! 「えーっ! 稜さんって……あのイケメンなワインソムリエ!? 嘘ー! 橙里さん付き合ってたの!? きゃー!」 ──え? あれ、この女性って稜のこと狙ってなかったっけか。 三人で首を傾げていると、女性がその様子を気にしないといったように興奮冷めやまぬ状態で喋り続けた。 「この前稜さんに彼女いるのかどうかって聞いたら『好きな子はいますよ』って言ってたからどんな美女なのかと思ったら……橙里さんだったんだ! そうだよね! 美人だもんね!」 「……くふっ……」 矢本が耐えきれずに笑っていた。恐らく稜がそう言ったのを想像してつい笑ってしまったのだろう。 ていうか、稜は客を前にしてそんなことを言っていたのか。出そうになっていた涙も引っ込んでしまった。

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