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樹×瀬島
短いお話ですがよろしければ……
蒼樹くんと羽村さんバージョンも公開します。
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「樹の家に行きたい」
橙里が帰宅し二人で店内の掃除をしているときに、ふと瀬島がそう呟いた。
それを矢本に向けて言っているのかただの独り言なのかはわからなかったが、矢本は動かしていた手を止め瀬島に向かって話しかけた。
「いいよ、来ればいいじゃん」
「あ、いいんだ」
「うん。ヤったのは海景さん家だったし?」
わざと揶揄を含んだ声で言うと、瀬島の顔がうっすら赤く染まっていく。
橙里の前ではあんなに男前だったというのに、自分の前では途端に大人しくなり忠犬のようになる。
そんな瀬島が、酷く愛おしい。
「じゃあ早く終わらせて俺ん家来てよ。あんまり広くないけど」
「わかった。樹って一人暮らし?」
「そう。地元は北海道」
「北海道かー。じゃあやっぱりゴキブリとかカマキリとかいなかった?」
「いないいない。こっちでゴキブリ見て本気で驚いたよ」
そんな他愛ない話をしながら片付けを始めていく。
こんな風に恋人のような話を瀬島と出来るとは未だに夢のようだ。瀬島のことを好きになったのはもう一目惚れに近かった。
若々しいその見た目に、少しつり上がった目元。金髪にも関わらず優しい雰囲気が漂う瀬島に惹かれたのだ。
橙里のことが好きだというのは驚いたが、なんとかこういう関係にまで発展することが出来た。本当に嬉しい。
「そういえば……今日予約あったんでしょ? どうだった?」
「あーうん。楽しかったよ」
「そ。それならよかった」
自分のことのように瀬島がはにかんで、喜んだ。
──あーもう、好き。
歳とか同性とかそんなの関係なしに、本気で好きになってしまった。
どうすれば抑えられるのだろうか。どうすればずっとこの人の傍にいれるのだろうか。
毎日、そんなことばかり考えている。
頭の中を占めているのはいつも瀬島で、瀬島のことを考えていない時間などないくらいに四六時中考えている。
「そろそろ行こっか。ね、案内して」
「もちろん」
瀬島が矢本の腕をくっと引っ張った。子どもがするような行動に、つい頬が緩む。
好きだ。この人のことが。
終
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