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甘い休暇1
「稜、デートしよう」
「は?」
あともう少しで寒さが和らぐか、といった微妙な季節。
ここ最近美容室を予約する客の数が急に増え、まとまった休みが取れなかったのだが、幹から有休を取れと言われたので取ることにしたのだ。
だから、こう思った。
デートしたい。
「……なんで急に」
「だってさあ、デートしたことないじゃん! したいー」
「……」
稜が、橙里のわがままに申し訳なさそうな顔をした。
そう。つきあってからというものの。
一度もデートをしていない。
理由は二つあり、一つは二人とも忙しかったこと。あとは、稜がデートというものに全く興味がないということ。
さらに、橙里も稜もインドア派のため、外に行くことすらなかった。
この際、恋人らしいことをしてみたい。
「別にいいけど。俺も有休取ろうと思ってたし」
「いいの? ワインソムリエが」
「……いいんだよ。仕事よりおまえを優先したい」
さりげなく嬉しいことを言ってくれた。思わず稜の腕に抱きつく。
ソファのスプリングが音を出した。
「で、どこ行きたいんだ? そこまで遠出はできねえぞ」
「……温泉行きたいなあ」
「温泉?」
テレビの特集でやっていた。
橙里も稜もそこまで湯が好きだというわけではないが、疲れを取りたい。あと、着物を着ている稜を見たい。
……後者の方が期待してる。
「……だめ? ちょっとくらいさ、甘えさせてよー」
「橙里の場合いっつもだろ」
言葉はぶっきらぼうだけど、言い方は優しくて甘い。
──あーもー、好きー。
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