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甘い休暇7
稜でもそういうときがあるんだと思うと、少し嬉しい。
ふふ、と笑いながらタオルケットを丸めたものを抱きしめると稜が言う。
「あ、今の結構キた」
「へ、今?」
「言っただろ、割とって」
「わかりにくいっつの」
まさかこんな些細なことで稜がきゅんとしてくれるとは。
どうしても顔が緩んでしまい、それを抑えられない。やっぱり自分は稜のことが大好きみたいだ。
「んへへへへへー」
「おい、運転中」
「りょおー、すきぃー」
「わかってっから」
片手で運転しながら、器用に稜の左肩に頭を埋める橙里の頭を撫でる。
世の中の女性が稜ほどのイケメンにこれをされてしまったら卒倒ものだろう。
後ろにいる車からは丸見えの状態だろうけど、知るものか。
「やっぱヤるの?」
「おまえだってそれが目的なくせに」
「う、うるさい。稜ほどじゃないもん」
「もん、て」
稜がクスクスと笑った。
橙里とつき合うようになってから、稜は笑うことが増えた。
雰囲気が変わって百倍くらいイケメンになるから大歓迎だが、なんとなくくすぐったい。けど、この顔を見れるのは橙里だけだと思うと不思議と優越感がやってくる。
橙里には、稜だけだ。
「あれ、もうすぐ着くかな」
「ああ」
「って……! あそこ、すっごい有名でめっちゃ高級な旅館じゃん……!」
「よく知ってるな」
テレビで何度も紹介されたことがある、かなり高級な旅館だった。
内緒にされていたが、こんなサプライズがあるとはさすがに思わない。ここまで甘やかされてしまったら、罰が当たりそうだ。
それくらい、今幸せに包まれている。
頬が自然と緩んで、規制できないくらいになってきた。
「すご……よく予約取れたね。しかも週末に」
「ばか。おまえの彼氏なんだからこれくらいできて当然だろ?」
「はは、そうか。かっこいいーすきー」
「やめろ」
かっこいい、と素直に好意を示した橙里の言葉に稜の耳が少しだけ赤くなっているのは気のせいだろうか。
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