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甘い休暇10
稜は、なにを思ってこの海を眺めているんだろう。
こっそり稜のことを横目で見てみると、少しだけ口の端を上げて海を眺めていた。
少しだけ顔が傾いているから、シャープな顎と浮き出た首筋がまた雰囲気を醸し出している。
やばいかもしれない。
ここまで稜がイケメンに見えてしまうなんて、ドキドキしてしまう。
耐えろ、耐えるんだ。
ドキドキしたら負け……ドキドキしたら負け……
「橙里」
「あぴゅっ!」
「……は?」
ちょ、びっくりさせないで。
稜が急に橙里の名前を言うのが悪い。だから、自分は悪くない。
情けない声を出したのも……稜のせいだ、うん、きっとそうだな。
恐る恐る稜の方を見ると、完全に呆れてる。ただ、そんな顔もかっこいい。
「……な、なに」
「いや……せっかく着物があるんだから、それに」
「わ、わかった」
いそいそとその場から離れようとすると、稜に腕を掴まれて後ろから抱きしめられた。
引き締まった身体が橙里の細い身体を包み、すっかり動けなくなる。
橙里の心臓は忙しなくばくばくしているというのに、稜の鼓動は全く速くなくて、けれどそれがなんだか安心させてくれた。
稜が橙里の肩に頭を埋め、さらさらしている稜の黒い髪が首に当たる。
「なあ、橙里」
「……稜」
「さすがにそこまで意識されちまうと、こっちだって意地悪してやりたくなるんだよ」
「……は、んん」
優しく橙里の顎を掴み、後ろに向けられてからくちびるが触れた。
ちぅ、と音を立てて触れたかと思えばゆっくりと舌が入ってくる。
いつもはゆっくりではなく激しく、橙里を壊すようなキスをされるから優しいキスはなんだかくすぐったい。
舌が橙里の口内をかき回し、腹に回っていた稜の腕は橙里の左胸に移動した。
あ、それはまずい。
男らしい手が橙里の胸に触れ、さらに心臓は速く動く。それが稜にバレてしまって、恥ずかしさで顔を背けてしまった。
「ちょ、だめ……だって」
「おまえ、ほんとに俺のこと好きなんだな」
「わ、悪いかっ。そりゃあ慣れないとおかしいだろうけど……僕はずっと稜にドキドキしてんの」
「……慣れんなよ。もっと俺に惑わされてろ」
また、くちびるが触れた。
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