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甘い休暇12
夜になり、夕食をとり終えた。
この宿は露天風呂が素晴らしいとのことなので、入りたいというと「だめだ」と言うかと思いきやすんなり許可してくれた。
意外だ。
「なんか、稜のことだしおまえの裸を見せたくないとか言うと思った」
「見せたくねえよ」
「……は?」
「ここは、部屋ごとに露天風呂が分かれてっから実質貸し切り。だからおまえの裸を誰かに見られるわけじゃねえの」
あれ、なんだか想像していたのと違う。
こう……男と女とで分かれているかと思ったけど、部屋ごとで分かれているのか。
なるほど……
……ん? あれ。ということは風呂ではやりたい放題なんじゃ……
ああー!
稜のテンションがなんか高いと思ったら、貸し切りだからか!
ドアがずらりと並んでいて、そのドアには部屋番号が書かれている。
稜がひとつのドアの前で止まり、部屋の鍵を差し込むとそのドアが開いた。
中を見てみると脱衣所の先には露天風呂があり、先客はいない。どうやら、本当に貸し切り状態のようだ。
稜がしっかりと内鍵を閉め、急に恥ずかしくなってくる。
「早く脱げよ。今更照れる必要なんかねえだろ」
「そう、だけど」
稜がさっさと着物を脱ぎ、かなり手際よく裸になっていた。
対して橙里は未だに帯を解いた段階だ。
稜は橙里に背を向けて、「先入ってる」とだけ言って露天風呂へ向かっていった。
絶対、する。
なんというか……背徳感が邪魔をする。
橙里だってしたくないわけじゃない。むしろ、したい。
だからこそ恥ずかしくて……
ああ、もう! さっさと腹を括るんだー! 初エッチをする前の女子高生じゃねえんだよー!
着物を脱ぎ捨て、裸になってからガラリと戸を開けた。
すると、稜が既に風呂に浸かっていて、橙里のことを見るなり手招きをする。
はうっ。
周りを見てみるとかなり高い塀に囲まれていて、隣の客の声は一切聞こえてこない。どうやら、塀が吸音材の役割を果たしているようだ。
しかも、海が見える。絶景。
足から露天風呂の中に入り、稜の隣に移動する。
外がまだ寒いので、暖かいお湯が身体に沁みる。
気持ちいい。やっぱり温泉がいいと稜に頼み込んでおいてよかった。
「はー……」
目を閉じて息を吐くと、隣からぱしゃん、と音がした。
なんだろうと思って稜のことを見ると、稜が風呂を囲うように設置された岩に頭を傾けていた。
いつもは稜が橙里を見下ろすけど、今は橙里の方が頭の位置が高いため、なんだか新鮮である。
すると何故か、頭の中で戸園が言ったあの言葉が駆け巡った。
『一回稜さんのこと抱いてみたら──』
……稜の、ことを。
橙里が稜のことを抱くことは恐らく不可能だろうけど、なんとなく試してみたくなった。
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