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甘い休暇20
「……ほら、もし稜が抱くのに飽きたときのために、ねっ」
嘘としか思えない理由だが、どうやら信じたらしい。
稜がはあ、と短いため息を吐いたかと思えば橙里の明るい茶色をした髪の毛に優しく触れてきた。
横を向くと稜が隣に寝そべっていて、いつもより少し幼く見える。
「ばぁか。橙里に飽きるわけねえだろ」
「っ! そ、そういうのずるっ……!」
だから、そういう歯の浮くような恥ずかしいことを言うのだけはやめてほしい。
顔に熱が集中する。
なんとか見られまいと、布団に顔を押しつけると稜が近づいてくる気配がした。
耳に、くちびるが触れる。
「……まあ、いつか抱かせてやるよ」
「……は?」
思ってもいなかった言葉に、顔を上げてつい口を開けたまま稜の顔を見ると、からかっている様子もなく微笑んでいた。
な、な、なっ……
「正直、おまえが雄みてぇに腰振ってんの興奮するし」
「はあ?」
「けど、誰かを抱いてんの想像すんのもムカつくからそのときは俺のこと抱けよ」
「はあ?」
「……まあ」
挑戦的に橙里のことを見て、頬に触れてきた。
その顔があまりに男らしすぎて、もう勘弁してほしいというのに奥が疼いてしまった。
それに稜が気づいたのか気づいてないのかは、知らない。
「何年先になるかはわかんねえけどな」
優しくするりと撫で、そのまま稜は目を閉じた。
この先もずっと一緒にいるかのようなその言葉は本当に嬉しくて、思わず泣いてしまいそうになった。
橙里は、痛い腰をなんとか上げて持ってきたバッグを漁り、とある代物を取り出す。
稜がちゃんと寝てることを確認して。
モチーフがついたペンダントを稜の首にかけてやった。
……稜は覚えていないかもしれないけど、実は何十年前の今日は、稜と橙里が初めて今日みたいに共に夜をふたりきりで明かした日だった。
明日、このペンダントに気づいた稜はどういう顔をするんだろう。
もう一度稜の隣に寝て、頬杖をつきながらすっかり夢の世界に誘われている稜の顔を見つめる。
不思議と、口角が上がってしまう。
稜が目覚めたらたくさん話そう。
好きになったきっかけも、互いのことも、胸焼けするくらいに甘い思い出のことも。
ペンダントについている葉の形をしたモチーフを指で掬いとる。
モチーフにはワインの主な原産国である、フランス語で『Je t'aime』と書かれている。
意味は────
「愛してます」
ふふ、と笑ってから、橙里は稜のくちびるにキスをした。
空には、無数の星屑が散らばっていた。
〈完〉
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