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あの二人6
俺が心の中で悶えていると、稜さんが白いシャツの袖を腕捲りした。
うわ、筋、が!
「そろそろ用意するか。えーと……おまえ、名前なんだっけ」
「矢本樹っす」
「樹か。おまえはなんもしなくていいから、待ってろ」
「え、いくらなんでもそれは……」
「いいから」
立とうとしたら鼻にデコピンされた。
う、デコピンは色々とトラウマが……
「そーだよ。てか、僕が誘ったんだから」
「ありがと……」
橙里さんも着ていたカーディガンを脱いで適当な場所に置き、かなり広いキッチンに向かった。
さて、稜さんはワインセラーに行く、と言ってどっか言っちゃったし。
この時間をどうすればいいんだろう。
「樹ー」
「なに?」
「樹って普段料理すんの?」
「そりゃするに決まってるでしょ。一人暮らししてたし、ガキの頃から親が家空けること多かったからよく自炊してた」
「へー、偉いんだな」
俺が自炊できないとでも思っていたのか、かなり意外そうに言った。
得意料理は肉じゃがー。あれ美味いよね。
橙里さんをこっそり見ていると、エプロンをして髪をピンで止めている。
なんかこう……人妻って感じがする。
「橙里さんはさ、稜さんのどこを好きになったの?」
「はっ!?」
ニヤニヤしながらそう訊くと、橙里さんがばっと顔を上げて俺のことを凝視してきた。
あらら、お顔が真っ赤。
「……別に。どこ、って言われたら難しいけど……強いて言うなら、優しいとこ」
「……へえ」
「あと、周りを見てなさそうで見てたりとか。学生時代とか、僕が一人で黒板消してたらあいつが一緒に消してくれたりしたんだよ」
その当時のことを思い出しているのか、橙里さんはふ、と頬を緩ませた。
それを見て、つい俺も口を弛ませてしまう。
こう……話を聞くだけでも、本当に稜さんのことが好きなんだなということが伝わってくる。
「……で、もう一個訊きたいんだけど」
「ん?」
「稜さんってエッチの時言葉攻めとかする? 道具とか使う?」
「おっ、まえ……」
えー、だって気になるじゃーん。
俺の予想では、橙里さんの名前を耳元で囁いて焦らすタイプと見た。
「言葉攻め……は、確かにされるけど」
「耳元で名前呼ばれたり、『挿れてほしいんだろ?』とか言われたり?」
「なんでわかんの!?」
橙里さんの顔にそう書いてたからでーす。
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