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あの二人9
さて、あれから一時間と数十分が経ったわけですが。
「もーいーくつねーるーとー、おしょーぉーがーつぅー」
「……橙里さん、正月はとっくのとうに過ぎたよ」
「ぁん? おまえはイケメンだねぇ、えへへへへ……」
見事に酔っ払いの完成。
さっきからずっと歌ってる。もうそろそろやめてくんねえかなって思ってるけど、中々やめない。
だから、もう寝かそうとしてる。
それは稜さんも同じのようで。
「橙里、ほら」
「うぅん、わあー稜が二重だー、稜が二人いるー!」
「……」
……待って。橙里さんっていつもこんなに酔うの? まじで?
これが演技だったら恐ろしいし、ほんとに酔ってるんだろうな……
ていうか、稜さんも稜さんで橙里さんの破壊力にやられてないか?
あ、稜さんが橙里さんの身体に毛布をかけた。
そしたら、橙里さんが何故かツボって笑い始めた。
「あはははは……! なにこれぇ、あったかーい!」
「っぐ……」
稜さんが口を手で覆った。橙里さんのかわいさにやられた模様。
橙里さんはかけられた毛布にくるまり、寝そべってごろごろ転がり始めた。
その脚が俺の足首やら足の指やらに当たる。痛え。
ていうか、酔っ払いに毛布かけて寝っ転がらせたらやばいでしょ。
「……これ、寝るんじゃない?」
「あと一分もしたら寝る。もう疲れた」
「……なんか、お疲れ」
心底疲れた、というように顔を顰めた稜さん。そりゃ酒を飲む度にこうなったら大変に決まってる。
こっそり心の中で一分間数えていると、まじで一分経ったら橙里さんが寝息を立てていた。
……ね、寝てる……だと……!?
「ほんとに寝たし」
「……はあ。運んでくる」
「いってらっしゃーい」
稜さんが立ち上がって橙里さんを肩に担ぎ、寝室と思われるところへ行った。
その間少し暇になったので、橙里さんが作ったものではなく売られているつまみを食べる。
血のように赤いワインを口に含み、飲み込むとアルコールが身体に回ったような感覚がした。
度数は高いけど、その分美味い。
ワインはそこまで好きではなかったけど、こんなに美味いとは思わなかった。
……これ、俺も酔わないように気をつけねえとな……
酔って稜さんに絡みまくって、一線超えたとかなったら橙里さんにぶっ倒されてしまう。
もしくは、あのデコピンか……
いやいや、あれは痛すぎる。あれをやられるくらいならいっそのこと殴って欲しい。
悶々と考えていると、少し髪型が乱れた稜さんがやってきた。
その息は、少し上がっていて。
「……え、この短時間で?」
「おい、勘違いすんな。あいつが寝ぼけて俺をベッドの中に引きずり込もうとしただけだ」
「……」
でもキスはしたんですよねわかります。
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