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あの二人12

 観念して力を抜いた途端──── 「いっっっっってぇ!!」  額に信じられねえほどの激痛が。  こ、この感覚、すごく覚えてるぞ、あれ。  おかしいな、目から水が。 「な、なにしてんの……」 「ふぅん。こりゃ虐めがいがあるな」 「……は!?」  稜さんがすげえニヤニヤしてる。稜さんの手をよく見てみると、デコピンをした後のような形。  ……て、ことは……  俺、橙里さんのみならず稜さんにもデコピンされたってこと?  解せねぇ! 「なんでデコピンを……」 「言っただろ。『味見』って」 「あ、味見……?」 「橙里がデコピンして、どんな反応するのか知りたかった」 「……」 「な? 『味見』」  紛らわしいっっつーの!!  あんなん言われたら誰でもキスされるって思うじゃん!  味見って……味見ってさあ……  稜さんが言ったらキスするみたいにしか聞こえねーよ!  ……はあ……疲れた……  ぐったりとソファの座るところにもたれかかると、稜さんは満足そうに何度も頷く。 「おまえ、やっぱ攻めじゃなくて受けの素質あるよ」 「……もう受けに回ってるし」 「橙里が樹のこと喰わねえかが心配だな……」 「ぐふっ!」  いや、それだけはありえない。  橙里さんに抱かれるとか……ぅえ、それはちょっとやだ。  俺の中の橙里さんはさ、かわいい感じだから。あのひとは男じゃない。橙里さんっていう括りの生き物だから……うん。  ていうか、それ以前に。 「橙里さん、稜さんのこと大好きだからそれだけはないと思うよ」 「……ん?」 「だって、休憩時間の時とかわざわざ俺んとこ来て稜さんの話してくるから」  稜さんと温泉に行った後の日はすごかった。  休憩時間のみならずお客さんがいない時にも稜さんのことを話してきた。  「あの時の稜がさぁ……」とか「稜がね……」とか「稜のあれが……」とか。  よくそんなに話せるなってくらい。  後半、もう相槌しかしてなかったから何話してたか忘れたわ。  確か、帰りの車の中で話したことを事細かに聞かされた気がする。  話聞いてもらいたいとか、女子かよって思ってた。橙里さんだから許したけどね。  すると、稜さんがつまみを食べる手を止めていた。  その顔の焦点は全く定まっていません。 「……稜さーん……?」  稜さんの顔の前で手を振ってみると、稜さんがはっと現実世界に戻ってきた。  え、どしたの。 「あいつ……どんだけかわいいんだよ……クソ……」 「……」 「おまえ、いつもそんな話聞いてんの」 「あ、まあ。稜さんかっこいいとか稜さん大好きーとか」 「っぐ……」  あ、稜さんが撃沈した。  橙里さんの前ではかっこつけてるんだろうけど、この人も人間なのか…… 「橙里さんがどれだけ稜さんのこと褒め倒していたか聞きます?」 「聞く」  稜さんが俺の質問に即答して、顔をがばっと上げた。  橙里さんのこと大好きなんだね……

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