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全て7
「……俺はあいつとつき合ってもいないし、ホテルに行ったこともない」
「……嘘っ!?」
「嘘だと思うのか?」
目の前の奴が、口を押さえて大袈裟に驚いた。
馬鹿なのだろうか……
稜と橙里がそういう関係なんじゃないか、というのはよく耳にする。だがそれらは全て根拠のない、出処が不明な噂だ。
そもそもやりたくてもやれない。
この立場で、既に橙里に惚れてしまっているのに手を出せないもどかしさは言葉では形容し難いものだ。
「つ、つき合っていないのにあんなにお二人がエロい雰囲気を出しているんですか……!?」
「エロい雰囲気? 出しているつもりはないな」
「なんですとー!? 北見先輩、あんなに橙里先輩のことを愛おしそうに見つめているのに! 腐男子のグループラインでは北見先輩と橙里先輩のイチャイチャっぷりを共有して鼻からトマトケチャップ状態なのに……!!」
他人で随分勝手なことを妄想してくれているものだな。
構わないが、節度を持っていて欲しい。
「この学校、男カップルの割合が多いんですよ! その顔面も悪くないから僕的には最高なんですけど、北見先輩と橙里先輩は別格なんです!! だって! 橙里先輩の背中からは羽が生えてるし頭には輪っかがあるんですよ!?」
「勝手にあいつを殺すなよ」
「あの天使は千年に一度くらいの逸材ですよ! 共学で男子生徒に告白されるなんて! 共学ですよ!? 女の子もいるのに! 男が! 男に!!」
「うるせえなさっきから」
甲高い上に声が大きいから頭が痛くなってきた。
というか……これは一体どういう意味があるのだろうか。わざわざ呼び出してまで言うことだったのか?
「……もう戻っていいか?」
「ぁあっ! 待ってくださいっ」
「なんだよ……」
「北見先輩にこれを渡したくて……」
少し照れながらなにかの本を渡してきた。
表紙を見てみると、そこには何故か橙里と稜と思われる生徒が描かれていた。
……なんだこれ。
ぺら、とページを捲ってみる。すると稜と橙里が交わっていて───
「おい、どういうことだよ」
「同人誌ですっ! それ、僕が一番好きなやつなんですけどー、絵が綺麗って以前に橙里先輩の表情がめっちゃよくて! あっ、もちろん北見先輩の感じてるお顔も素敵なんです!! でもでも、ほら、この橙里先輩の顔、実際にありそうじゃないですか!?」
ぺらぺら、と一気に捲り指さしたのは、確かに橙里ならやりそうな表情だった。
これは……まずい。
たかが絵だ。絵のはずなのだけど、結構興奮してしまう。
耐えろ。ここは学校だ。
「……」
「今なら橙里先輩のオフショット写真十枚つきですけど……」
「いくらだ」
「さんびゃくまんえん!」
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