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全て8
「……何か稜がニヤニヤしてる」
「え、いつも通りじゃねえ?」
「どこが? だってほら……口角がいつもより二ミリくらい上がってるよ」
「なんでそんなのわかんの!? 恐怖なんだけど!!」
放課後。稜は日直のため、日誌を書いていると橙里と山本が近づいてきた。
するとすぐに橙里がそんなことを言うものだから、内心驚いた。
あれから腐男子、とやらはありったけの橙里の写真を俺に預けてきて、満足したのかふらっと帰っていった。
嵐のような奴だったな……
授業中に何枚か見ていると、かなり際どいものもあり、稜の稜がとんでもないことになりそうだったので見るのは一旦やめた。きっと、やめておいて正解だったと思う。
「あ、そうだ。結局おまえさ、高木先輩とのことどうしたの?」
「……思い出したくもねえ」
「キスされた!? キスされた!? セックスした!?」
「だーれがするかよ! されそうになったから頭ひっぱたいて来たわ!」
うるせえ。
俺の周りにはうるさい奴しか集まんねえのか?
はあ、とため息を吐くとどうしてか山本に目をつけられた。
「そうだ。稜は昼休みどうだった? なんかされた?」
「……いや、特に。訳わかんねぇ話されただけ」
「あ、あれだろ? 橙里と稜がどーたらこーたら! とか言われたろ」
「まあ」
「やっぱりなー。橙里と稜ってつき合ってる噂めっちゃ出てるから……」
「つき合ってないからな!?」
「わかってるわ! てか、そんな否定したら稜くんが可哀想だろー!」
「やめろ」
どさくさに紛れて山本が抱きついてきやがった。橙里ならいいけど山本は勘弁して欲しい。山本は抱けない。
無理やり引き剥がし、橙里の方に投げつける。
山本は稜の気持ちを(恐らく)理解しているだろうから、橙里には抱きつこうとはしない。
……いや、違うか。橙里が山本が抱きついたらアッパーをかますのか。
「稜はいいよなあ、女子にもモテてるし。僕はどうして男にしかモテないんだよー!」
「だってほら、おまえは女子よりかわいいから」
「ぁん?」
「……前言撤回で」
女子よりかわいい、か。
確かに、稜に告白してくる奴らはそれなりに顔面偏差値は高いとは思う。
けれど、橙里と比べてしまうと見劣りするというか。まあ、しょうがないことだとは思うが。
ただ単に稜の好みが橙里の顔とは言いきれないほどに、橙里は綺麗な顔をしている。
その顔を快楽で汚すと、どれくらい唆られるのだろうか。
手を動かしながらそんなことを考えているとは露ほども知らずに、橙里と山本は口論していた。
「だってさー、たまに思ったりしねえの? 『僕、今日もかわいい……自分で自分のこと抱けるかもっ!』って」
「それおかしいだろ……おい! オナニーじゃん!」
いや、厳密には違うけれど。
橙里の口からそんな言葉が出てくるだなんて。
「あはぁ、まさか君の口からそんな卑猥な言葉が聞けるとは思わなかったよぉ! あっはははは!」
「うぜぇ……この世で殺人が悪いことじゃなければ、僕は真っ先におまえの息の根を止める」
「怖いなあ。そんなこと言って本当は俺のこと好きなくせにぃー」
「好きだよ! 好きだけど文句あんのかよ!」
「……はっ!? デレんなよ! 俺だっておまえのこと好きだよ!」
コントかよ。
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