10 / 30

嵐の前の静けさ 9

「……たすく……。」 途端に真剣な表情になる広彰。 「ん?」 「あのさ、俺……お前の事っ…!」 広彰はそこまで言って言葉を詰まらせた。何か言いたげに目を彷徨わせる姿に、俺はキョトンと首を傾げる。 「あ、いや…。あんまそう言う事これから他の奴に言うなよ?ほら、世の中には悪い奴もおるし。」 「…そう言う事?」 「“俺になら何されてもいい”ってやつ。お前は無意識かも知れんけど、タスクが思っとる以上に言われた男は煽られるし。それに悪い奴に言ってみ?酷い事されかねんやろ?」 「うん…。」 他の人に言うわけない。広彰だから言ったんだよ。広彰の事が好きだから。だから、他の人にももう抱かれないって決めたんだ。 それでも、俺がこれから他の人とセックスするって思っている広彰。当たり前だよね。普通、男同士で恋愛とか考えないだろうし。性欲が発散できて妊娠もしない便利で都合のいい道具みたいなものだよね、俺は。 だったら、俺はとことん都合のいいやつを演じてみせる。広彰は優しいから…、セックスの時、恋人のように扱ってくれる。これから立派な警察官になって、みんなのヒーローになって、そして結婚し幸せな家庭を築き上げていくだろう広彰に対する俺の叶わない恋心を。広彰が就職するまでの間だけでいいから。感じさせて…。 そうしたら、 「……ひろあき…。」 この気持ち、忘れるから────。 「……抱いて…、おねがい……。」

ともだちにシェアしよう!