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嵐の前の静けさ 10

やっぱり広彰は優しい。雑に抱いて欲しいとお願いしたけど、ダメだと言っていつものように丁寧に抱いてくれた。優しすぎて、残酷だ。抱かれる度に好きになってしまう。だって、抱かれている間は本物の恋人になったみたいに、ぽかぽかした気持ちになれるから。ただの錯覚なのに、もう諦めなくちゃならないのに。ズルズルと引きずって、出来るだけ長く…と求めてしまう。肌を重ねれば重ねるほど、終わった後の喪失感に胸が痛くなるのに。 何してんだろ、俺。…寝よう。 広彰の腕の中でもぞもぞと動いたら、シーツが音を鳴らした。 「なあ、タスク。何か悩んどるやろ?」 不意に上から声が降ってきて、見上げると広彰とばちりと目があう。咄嗟に視線を外して。 「どうして…、何もないけど。」 一瞬、心の中を見透かされたような気がしてどきりとした。 安心したのも束の間、今度は広彰の手が俺の頬に触れて、 「さっき、泣いとった。」 「えっ?」 また、視線が合う。 「やっぱりな。自分でも気付いてないやろ思った。心ここにあらずって感じで、静かに泣いとったから。」 「ご、ごめん…。ちゃんと気持ち良かったよ、気持ち良すぎて泣いてたのかも…。」 広彰の機嫌を損ねてしまっただろうか。まさか、行為中に泣くなんて…。もう、面倒臭いって捨てられる…? 悶々と考えていたら、大きくため息が聞こえて。 「責めとる訳じゃないって。泣いとった理由そんなんちゃうやろ?」 「……。」 「悩み事あるんやったら、何でも聞くで。頼って欲しい。俺、タスクの力になれへんかな?」 それは友達として?俺は広彰の事が好きで恋人になりたいと言ったら? …そんな事言える訳ないよね。 なんだか、色々な感情が混じってきて泣きそうだ。だからそれを気付かれないように淡々とした声で答える。 「ありがとう。でも本当に何でもないよ。多分酔いが残ってたからだと思う…。」 「たすく…っ。」 「明日から学校だし、早く寝ようよ。おやすみ。」 零れ落ちそうな涙を見せないように、その日は広彰と反対の方向を向いて眠ったのだった。

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