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青天の霹靂 8
炎と煙、そして瓦礫に囲まれて俺は一人ぼっちだった。閉鎖された空間で孤独に思う、
ああ…俺、死ぬのか。
どうせ死ぬのなら、いい終わり方をしたかったな…。なんて諦めの言葉を思いつつ、それでも手元にある水を求める自分は滑稽だった。
「……ぁ゛……ははっ……。」
幾らかそれを繰り返しているともう水は底を尽きてしまった。それは俺の希望が…命が無くなる事を表しているに等しい。
ほらだって、視界がこんなにも白い。……それに、白い人に包まれている感覚がする。
「…………ぅ……か…。」
何か聞こえる…?
人の声?
いや、天国か地獄か。あの世の人が迎えに来たのか…。
「おいっ、しっかりしろ!大丈夫か!?」
「……!」
違う。
必死の形相で俺を見る彼は、
確かにここに存在している。
その白衣を着る彼に、なぜか俺は安心感を覚えた。
「ぁっい……いた、ぃ……。」
「よし、意識あるな。待ってろ、絶対に助けてやるから…。」
確実に届いてくる声。その力強さに、俺は涙を流す。
しかし、次に言い渡されたのは俺にとって絶望の言葉だった。
「今から足を切断する、いいな?」
「……ぇ…。」
足を、せつだん?
「瓦礫はびくともしない。人間の力じゃ到底敵わないくらい上に乗ってる。切るしか助かる方法が他に無いんだ…。それに足の感覚ももうないだろ?このままじゃ、多量出血で死ぬし、助かったとしてもどの道細胞の壊死で足を切り落とす事になる。…だから、今はこれが1番最善の方法だ。」
よくもそんな恐ろしいことを冷然と言う。絶対にそんなの嫌だ。足が無くなるなんて。
「……いっ、嫌だ、切りたくない…。」
俺は震える声で頭(かぶり)を振るう。
「それしか方法がないんだっ、受け入れろ…!」
「いやだ!いやっ……、」
「早くしないと、助からなくなるぞ…!」
「それでいい…、足が無くなるくらいなら…、死んだ方がマシだ……!お願いっ…おねがいします…いやだっ、いやっ…。」
ボロボロと情けないくらいに涙が出てくる。受け入れられない。考えられない。自分の足が無くなるなんて…。
目の前から手が伸びてきて、自分の体を守るように身を縮こめた。でもあっさりと、捕まって。
両頬を包み込まれて、目が合う。
「…よく聞いてくれ。
俺は君を死なせたくない。」
力強い目線、力強い声、そして優しい手。
「…ごめんな。」
湿ったガーゼで鼻と口を覆われる。それから意識がふわりとして。
“俺が責任を取るから。”
夢の中でそんな声が聞こえた気がした。
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