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青天の霹靂 9

* 目が覚めるとそこは、気持ち悪いほど静かで穏やかだった。真っ白な天井と真っ白なカーテンで囲まれた空間。点滴のようなものがぶら下がっているのが見えて。 ………生きてる。 暫くぼーっと天井を眺め、それから目を瞑ると微かに外の方からサイレンの音が聞こえてきた。 ゥゥウゥゥ… カンカンカン… ドクン… 「っぁ゛…。」 一気にフラッシュバックする。 “もうあかん、死ぬぞ!” “兄ちゃん…ほんまごめんなっ…。” “絶対に助けてやるから。” “俺は君を死なせたくない。” ドクン… 「ぅ…ぅぁ゛…。」 ───“今から足を切断する、いいな?”─── ドクンッ 「ぁ゛、っ…。」 視線を下にずらす。まともに息も吸えなくなってきて震える手でゆっくりと布団を捲(めく)っていく。見るのが怖い。でも、そこから目を離せない。ガタガタ震えながらも捲った先には… “何も”なかった。 ひゅ、と喉が鳴る。 おかしい。そんなはずない。 「どこ…。」 ベッドのリクライニングを近くにあったボタンで上げ、上半身を起こす。 「どこにあるの…おれの、足…。」 ペタペタと足があるはずの部分を触ってみても、その手はシーツに触れるだけ。 「うそ…、嘘だっ!おれのっ…、俺の足はっ…?」 無い。何処にもない。 腰から順に下へと手を滑らせて。太ももの半分にもいかない所で、それは途切れていた。 「……ぁ、…ぁあ…っ、やだっ、イヤァァァァァァァァアア゛───────!」 狂った様に叫ぶ。もやは狂いたかった。 「先生!新稲くんが…!」 「どうした!………くそっ、押さえて!」 「ぁ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」 「新稲くん!落ち着いて!大丈夫だからっ…。」 何人がかりかで腕を押さえつけられ、そして白衣を着たそいつは、あの時と同じ様に俺の両頬に手をやった。子どもに言い聞かせるみたいに、俺の目を見て、何度も何度も大丈夫だからと言う。 「何がッ、大丈夫だ!俺の足を返せ!アンタのせいでっ…!こんな惨めな姿…、死んだ方がいいっ、殺せよ…殺してくれよッ、出来んだろ!」 そこまで言うと、白衣の男は先程とは打って変わって、氷のような冷たい眼差しでこちらを見据えてくる。 「よく考えろ。命が助かっただけでも良かったと思え。」 一瞬温度が下がって、背筋が凍りついたみたいに動けなくなる。でも、怯むわけにはいかなかった。 「あんたに何がわかる!もういいっ…、ここから出て行け!」 白衣の男は少し表情を歪め、そしてその場から立ち去った。

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