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途端の苦しみ 3
うそだ…嘘だ…。
広彰が死ぬなんてありえない。
最後に広彰に抱かれた感覚だって残ってる。あの時と変わらないシーツからはまだ広彰の匂いがするのに。
死んだなんて嘘だ。
きっと倫太が悪い冗談を言ってるだけで…。
“広彰はどうして警察官になりたいの?”
“俺、小さい時に川遊びしとったら足滑らせて激流にのみ込まれた事あってさ。もう死ぬー!って思ったら、警察官のお兄さんがばーん!って飛び込んできて、そんで助けてくれた。あん時の飛び込んでくる姿がスローモーションに見えてん。ヒーローみたいでほんまに格好良かった。俺もあの人みたいになりたいねん。困っとる人を1人でも多く助けたい。”
「っ…ぁ…、」
“俺、何も出来んかったッ!”
「…………ひろ、あきっ……。」
輝かせた目で夢を語り追いかけるあの頃と、つい先日の何も出来なかったと思い悩む広彰の顔が鮮明に思い出される。
そうだ…。
あの時、広彰は泣いてた。
何も出来なかった。
俺を助ける事が出来なかった、と。
「や、やだ……ひろあき…ひろあきっ!!」
慌ててベッドから抜け出そうとして、
「ッ!いっ……。」
盛大に体を床に叩きつける。床に血がつくけど、構ってられない。すぐ側にある扉を引いて、腕の力だけで這うように廊下に出た。
目の前にあった二段ほどの階段を越えて引き扉を開ける。そこは屋上のテラスの様になっていて、解けていく包帯を気にも留めず柵の方まで這っていく。
「はぁっ………はっ…。」
少しだけ息をついて、それから久しぶりに見る外の景色。
「………っ!」
それは息が詰まるほどの衝撃的な景色だった。
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