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身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ 2
「っにいなくん!!だめだ!!」
大きな声が聞こえてきて、気が付けば痛いほどに抱きしめられていた。
「えっ?」
状況が掴めず咄嗟に出た俺の間抜けな声を聞いて、今度は瀬波が驚いたように顔を上げる。
「飛び降りようとしていたんじゃないのか…?……よかった、様子見に行ったら姿が見えなかったから…。まさかと思った……。」
はぁ、と安堵の息を吐く瀬波。よく見たら冬だと言うのに額に汗を掻いていて、服も乱れている。探してくれたんだ……俺のこと。
助けてくれたのに、酷い態度を取ってさっきまで衝動で広彰の後を追おうとしていた俺のことを。
今抱きしめられている温もりに、ほっとして。そして死ぬ事がとてつもなく怖くなって。
涙が止まらなくなった俺に瀬波は、また、大丈夫大丈夫と繰り返しながら背中に回した手で優しく撫でてくれた。
瀬波の腕の中でひとしきり泣いた後、軽く腕を突っ張り、俺は体を離した。
そして、彼の目を見てちゃんと言う。
「生きるよ、俺。」
瀬波は言葉を発さず頷いた。
「せんせ…。おれ、生きるよ。広彰の分まで…。ありがとう、助けてくれて。この命大切にする、から……。」
「あぁ…。よく頑張ったな。」
そう言って瀬波はまた、よしよしと俺をあやす様に抱きしめた。
どのくらいそうしていたのだろう。辺りは暗くなっていて。
「だいぶ冷えてきてたな。そろそろ戻ろうか。」
「うん…。」
「足、引き摺ってきたんだな。包帯がボロボロだ。新しい傷はないか?」
「…大丈夫。ごめんなさい。」
「いいんだよ。明日に備えて今日はゆっくり休みなさい。」
よいしょ、と瀬波は俺を抱き上げる。
足がない所為で頭の方から転げ落ちそうな感覚が怖くて、咄嗟に瀬波の首に腕を回した。
「あした?」
「そう、明日。身元の確認が終わった人から、一斉火葬するらしい。」
「……っ。」
「広彰くんに、お別れしに行こう。」
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