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第9話
「別に。君に心配されるような事じゃないから」
え?
先程までほんわか優しい雰囲気を醸し出していた日比谷先輩の口から零れたのは冷たく吐き捨てるような言葉で。
俺と、相羽は揃ってお互いの顔を見合わせた。
え?え?今の日比谷先輩の言葉なのか?
「え…?」
「用件はそれだけ?ならもういいかな、僕忙しいんだけど」
「日比谷先輩…」
冷たい口調の日比谷先輩の言葉に、天使ちゃんは表情を固まらせる。
俺と相羽もどうしていいか分からずに、その場に立ち尽くしていた。
そんな中口を開いたのは、超絶美形だった。
「優里、そんな言い方はないだろう?桜木も俺もお前の心配をして」
「だから、その心配が迷惑だと言ってるのが分からないのかな?」
「なっ…!?」
「とにかく、君達に心配されるようなことは何もないから」
冷たいままの口調と態度でそれだけ告げると、日比谷先輩は俺達の方へと向き直る。
「騒がせて御免ね。行こう」
俺達に告げる言葉は先ほどまでの優しい日比谷先輩の言葉で、そのまま先輩は歩き出す。
俺と相羽はどうしたらいいのか迷っていたけれど、先を歩きだした先輩の背中がどこか辛そうに見えて、もう一度お互いの顔を見合わせて頷いてから日比谷先輩の後を追いかけて行った。
「優里!」
呼び止める超絶美形の声を無視して、日比谷先輩は校舎の中へと入っていってしまう。
俺達も昇降口で靴を着替えて日比谷先輩の後を追うと、廊下を曲がったところで先輩は待ってくれていた。
「せ、先輩…」
「二人とも本当に御免ね!?何か変な場面に巻き込んでしまって」
パンッと顔の前で手を合わせて謝る日比谷先輩は、先程までの冷たい雰囲気は全くない優しい先輩で俺は少しほっとしながら告げる。
「それは全然いいんですけれど…いいんですか?」
「…うん。いいんだ。あれで」
何がとは言わずに問いかけた俺の言葉に日比谷先輩は微笑んで頷く。
その笑顔がとても寂しそうで、俺も相羽もそれ以上は何も言えなかった。
「って、僕の事より相羽君のことだよね」
「えっ!?覚えてたんですか!?」
「そうだ、そうだ。作戦会議しないとな。俺だってちゃんと覚えてたからな!」
「忘れてくれてよかったんだが!?」
「忘れるわけないよねー?」
「そうですよねー」
「はぁ、最悪だ…」
にこにこと笑みを浮かべて言いあう俺と日比谷先輩の姿に、相羽は軽く頭を抱えていたのだった。
そして、昼休み。
屋上なら人もそんなにおらず話していても他の人に聞かれる心配はないんじゃないかな、という日比谷先輩の言葉で、俺達は屋上に集まることにした。
「それで、だ。相羽は隆一の事いつから好きになったんだ?」
「いつから…気が付いたら好きになってたからはっきりとはしないが、強く意識したのは中二の時かもしれない。その時、隆一は別の中学の女子と付き合いだして、その女子にすごく嫉妬してる自分に気が付いたから」
「成程。今はもう付き合ってないのかい?」
「ああ、別れたって聞いた」
三人で弁当を広げながら、できるだけ小声で話し合う。
「他には付き合った子はいないのか?」
「中三の時に街でナンパした子と付き合ってたけれど、高校に上がる前に別れてる」
「じゃあ、現時点ではフリーの可能性が高いのか」
「多分。あいつ、彼女が出来ると必ず俺に自慢してくるんだ。今のところ別れた報告以降それがないから」
うん?
ウィンナーを口に運びながら、俺は相羽の言葉に引っ掛かりを感じる。
「必ず自慢してくるのか?それと別れた報告も?」
「ああ」
「それって、もしかしたら、相羽に意識して欲しいから言ったんじゃないのか?」
「それは僕も少し思ったよ」
うんうんと、卵焼きを食べながら日比谷先輩も同意してくれる。
けれど、相羽はすぐに首を横に振って否定してきた。
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