「へへっ、ここまでくれば流石に…って、ええええっ！？」 余裕をこいて立ち止まり振り返った新聞部員は声を上げる。 それは無理もないだろう。 形相を変えた俺が。 「うおおおおおおおおおっ！」 と、雄たけびを上げてすぐそこまで追いかけて来ていたのだから。 「ぎゃあああああっ！！」 「フィルム、わあああたあああせえええ！」 「ぎゃあああっ、た、助けてええええっ！」 叫び声をあげて再び走り出す新聞部員。 逃げるのなら、どこまででも追いかけてやるぞな、勢いで追いかける俺。 昔から鬼ごっこは得意だったんだ。 絶対に捕まえてやる。 「まあああてええええっ！」 「ひええええっ！」 そのまま一階へと降りていく新聞部員の後を追いかけて俺も一階へと降りる。 一階にはまだ他の生徒達もちらほらと残っていて、逃げる新聞部員と追いかける俺の姿を何事かというような様子で見てくるけれど、今はそれどころじゃない。 新聞部員はそのまま靴も履き替えずに昇降口から飛び出し、俺もそれを追いかける。 そして、向かったのは体育館裏。 俺はしめた！と笑みを浮かべた。 体育館裏は行き止まりになっていて、他に逃げ道はない。 「あ！？」 「ふふふ、さあ、もう逃げられないぞ？」 「ひ、ひいいいいっ」 「カメラとフィルム渡してもらおうか」 指をパキパキ鳴らしながら、壁に張り付く新聞部員へと一歩、また一歩と近づいていく。 「わ、わかりました！わかりましたから、命だけはお助けを！」 そう言って、新聞部員はカメラを俺の方へと投げてくる。 命ばかりはって、人を極悪人みたいに失礼だな。 と思いつつも投げられたカメラのフィルムが入っている部分を開けてフィルムを取り出しビーッと引っ張って映っているものを確認する。 逃げている間に違うものとすり替えられていたりしたら大変だからな。 フィルムにはしっかりと隆一の相羽の姿が映っていて、それをポケットに入れると、カメラは返しておく。 「あー…折角の特ダネが…」 「新聞部員なら他人のプライバシーを侵害するようなものじゃなくてもっとためになるような記事を書くんだな」 それだけ言い捨てると、俺は踵を返し校舎の中へと戻っていった。 そのまま階段を上がろうとしたところ。 「あ、高松君。いた」 降りてきた日比谷先輩と鉢合わせる。 「あ、先輩。フィルムはちゃんと取り上げましたよ」 ほら、とポケットから出して見せると先輩はほっとしたように笑みを浮かべた。 「よかった。これで二人は見世物にならずに済んだね」 「ですね。ところで二人は？」 「うん。僕の方から、全部事情を話しておいたよ。そこからは二人きりで話した方がいいだろうからさ」 「そうですね」 両思いになって、イチャイチャするところが見れないのは残念だけれど。 それはこれから沢山見られるだろうから今日のところは我慢するか。 生BLに生チューも見られたことだしな。 今日は本当にいい日だ。 「ところで、先輩はこれからどうするんですか？俺は寮に帰りますけど」 「僕は部活に戻るよ。心配で抜けてきちゃったけれど、荷物も音楽室に置いたままだからね」 「そうですか。あ、俺も教室に鞄取りに行かないと」 「じゃあ、ここでお別れだね。二人がどうなったかは、また明日聞かせてもらおうよ」 「そうですね。明日、楽しみにしておきます。それじゃあ先輩また明日」 「うん。また明日ね」 軽く手を振って日比谷先輩は階段を上っていく。 その姿を見送ってから、教室に戻ろうと足を動かした俺は不意に誰かの視線を感じて足を止め辺りを見回す。 けれど、別段俺の事を見ている生徒の姿はなく軽く首を傾げる。 何かじっと見られているように感じたんだけれどな。 気のせいかな？ 念のため、もう一度辺りを見回してみたけれど、やはりそれらしい人物の姿は見当たらず、やっぱり気のせいかと俺は教室へと向かう事にしたのだった。