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第17話
「あいつはやめておけ。悠斗」
やめておけって、妄想するのを?
って言うか、なんで俺が妄想しているのがバレたんだ?
もしかして、全部口に出てたとか!?
うわ、恥ずかしい!それは凄く凄く恥ずかしい!
と一人で心の中で焦っていると、隆一は言葉を続ける。
「あの人は二年の矢谷 涼 と言って中学の頃から手の付けられない不良で有名なんだ。一人で何十人もを相手にしたとかいろいろ言われてる」
ああ、やめておけってそっちの意味か。
よかった。
考えが口に出てて腐男子なのが全員に伝わったのかと思った。
違ったならよかった、よかった。
まぁ、そこまで隠しておかないといけないことでもないから、バレたらバレたでその時はその時なんだけれどさ。
でも、とりあえずそういう意味なら、と俺はじっと不良系超絶イケメンである矢谷先輩の方へと視線を向けて、じっと見つめる。
「なんだよ?泣いて座下座するなら許してやってもいいぞ!?」
いや、お前が言うなよ。
と、勝ち誇った顔をするモブ1君につっこみながらも、俺は隆一に向かって告げた。
「心配してくれてサンキュ。でも大丈夫だ。負けないから」
「あ?」
俺の言葉に反応したのは、隆一じゃなくて矢谷先輩だった。
「おい、そこの奴。今なんつった?」
そこの奴、って俺の事だろうか。
まぁ、俺の事だろうなと思いながら、返事をする。
「心配してくれてサンキュ?」
「違う、その後だ」
「でも大丈夫だ。負けないから?」
「それだ。本気で言ってんのか?」
「そうですね。というか、やめましょうよ、喧嘩なんて。先輩の事傷つけたくないですし」
折角そんなの綺麗な容姿に傷をつけるのはしたくない。
本気でそう思って言ったのに、何故か矢谷先輩の目が殺気立つ。
俺は何か悪いことを言っただろうか?
と不思議に思っていると、日比谷先輩が腕を掴んで心配そうに言ってきた。
「謝った方がいいよ。高松君。危ないよ…!」
「心配してくれて有り難うございます。でも、大丈夫ですから。先輩達こそ危ないですから下がっていてくださいね」
そう言って俺はそっと日比谷先輩の体を後ろに追いやる。
「てめぇ…。本気で俺に勝つ気で嫌がるのか」
「勝つ気というか、負ける気がしないだけですけど」
「ほう、そうか。泣いて謝るならめんどくせぇし、やめてやろうと思ってたけど。少し痛い目見ないとわからねぇみたいだな!」
というかこういうシーンは出来れば俺みたいな平凡じゃなくてもっとイケメン美形とやって欲しい。
俺はそれを外から見ていたい側なんだよな。
考えながら、俺はこちらへと向かって右ストレートで殴り掛かってきた矢谷先輩の拳をすっと背後に身をずらして避ける。
「なっ!?」
「ええっ!?」
驚きの声を聞きながらも俺は妄想を続けていた。
相手を務めるとしたらここはやっぱり王道中の王道、文武両道の超絶美形で真面目な奴がいいな。
不良である矢谷先輩の事が気になって、更生させようと説得するけれど最初は全く相手にされない。
けれど、王道イケメンは諦めることなく先輩の元に通って説得するうちに、だんだん先輩に惹かれている自分に気が付くんだ。
矢谷先輩は先輩で最初は鬱陶しい奴だとしか思っていなかったけれど、気になっていく自分に気が付いて、でも受け入れられなくて、王道イケメンに勝負を挑む。
俺に勝ったら、何でも言うこと聞いてやるって条件で。
って言うのがここまでの場面かな。
なんて考えている間も、俺は矢谷先輩の攻撃をひょいひょいとかわし続けていたんだけれど。
「このっ…野郎!」
いくらやっても当たらないことに焦りと苛立ちを感じたのか、矢谷先輩は渾身の一撃を放ってくる。
そうそう、こんな感じで繰り出されたパンチを王道イケメンは受け止めて。
と考えるのと同時にパシッと俺も腕を掴んで受け止める。
「矢谷。もうやめよう。こんなことは。俺は好きな人を傷つけたくない」
なんていうんだよな!
うおおおっ、萌えるうううっ!!
「っ!?」
妄想に興奮するあまり、俺は自然と矢谷先輩の腕をひねりあげてそのまま体を背負い投げるかっこうで地面にダンッと叩きつけていた。
「おいおいおい、嘘だろ。まじかよ」
「高松君、強かったんだ…」
呆然とする隆一達の言葉に、俺ははっとする。
しまった!思わず興奮して、矢谷先輩の体を投げ飛ばしてしまった!
慌てて俺は矢谷先輩の元へと駆け寄る。
「すみません、先輩!大丈夫ですか!?」
矢谷先輩は信じられないような表情でその場で座り込んでいた。
「俺が…負けた?」
「先輩、どこか怪我とかしてないですか?」
「……っ、…しろよ」
「はい?」
「俺が負けたんだ。好きにしろよ…」
いやいや好きにしろと言われても。
これが王道イケメンなら。
「なら、俺の恋人になってくれ」
とか言うんだろうけれど、そんな恐れ多い事、平々凡々なフツメンの俺が口にできるわけもない。
というか間近で見ると本当に綺麗で格好いい人だな。
これで黒髪だったら、もっと美形度が増すだろうに、勿体ないな。
なんて思ったから、気が付いたら俺は矢谷先輩の顔を覗き込んで口を開いていた。
「髪色黒かったらいいのに。折角の綺麗な顔なのに勿体ないですよ」
「なっ…!?」
俺の言葉に矢谷先輩は愕然として俺を見つめる。
どうかしたのかと首を傾げる俺を暫く見つめていたがやがて何故か顔を耳の端まで赤くさせたかと思うと。
「ふっざけんな!」
と叫んでその場を脱兎のごとく走り去っていってしまう。
あれ?俺、何か変なこと言ったかな?
あんなに顔を真っ赤にして怒るって事は、赤髪に何か深い意味があったのかもしれない。
失礼なこと言ってしまったのだったら、今度会った時には謝っておかないとな。
思いつつ一人残されポカーンとしているモブ1君に俺はブンブンと腕を回しつつ声をかける。
「それで?次はモブ1君が相手になるのかな?」
「し…」
「し?」
「しっつれいしましたああああっ!!」
モブ1君も叫びながら走り去っていく。
その後姿にひらひらと手を振りながら見送ると、隆一達の方へと向き直る。
「なんか、騒がせて御免な」
「い、いや、それは良いけれど。お前強かったんだな?中学時代不良だったとか?」
「え?ないない。ただ、中学3年まで武道習ってたから。自然と身についてるもんだよな」
「何と言うか…凄い奴だな。お前」
隆一の言葉に、相羽や日比谷先輩も頷く。
その様子に俺はそうかな?と不思議に思って首を傾げて見せるのだった。
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