翌日。 眠い、昨日新しいBLのアプリゲームをやり過ぎたな。 でもすごく面白いんだ。 攻め受けが選択肢で決められる内容になってて、だいたい主人公キャラは外見が受けっぽくて、攻略対象キャラは攻めっぽいんだけれど、俺はいつも主人公を攻めにして攻略してる。 受けっぽい奴が実は攻めって言うのは本当に美味しい。 俺のスマホの待ち受け画面にはBLゲームばかりが並んでる。 「ふわぁ…眠い…」 「おはよう。本当に眠そうだな」 そう声をかけてきたのは相羽だった。 相羽とは登校時間が似ているのか、だいたい朝顔を合わせることが多い。 隆一と一緒じゃないのは、サッカー部の朝練があるせいだ。 「おはよう、相羽。ちょっと昨日夜更かししてさ」 「何してたんだ？」 「アプリゲーム」 「高松、ゲームなんてするんだな」 「殆どアプリゲームだけれどな。相羽は？ゲームとかしないのか？」 「あまり得意じゃないな。隆一の奴は結構得意みたいだけれど」 「あー、やってそうだな。スポーツ系とかアクション系」 「ご名答。あいつ俺が得意じゃないの知ってて対戦させるんだ。ったく、素人に勝ってそんなに嬉しいのか」 不満げに告げる相羽に俺は笑みを浮かべる。 「いや、多分それは、相羽と一緒にいる時間が嬉しかったんじゃないのか？」 「なっ…！」 「相羽だってそうだろう？」 にまにまとした笑みを浮かべながら告げれば、相羽は微かに頬を染めて視線を逸らす。 「まぁ、俺も…嫌じゃなかったけど…」 「相羽が可愛い」 「うるさい」 「いてっ！」 心の声を口にしたら後頭部を叩かれてしまった。 そんなやりとりをしているうちに校門に辿り着いたんだけれど、門の前に人だかりが出来ていてざわざわと生徒達が何か騒めいている姿が見られて立ち止まる。 「なんだ？なにか騒がしいな」 「何かあったのか？」 俺と相羽は顔を見合わせて首を傾げる。 生徒達の話によく耳を傾けてみると。 「おいおい、まじかよ！」 「あの先輩が…！？」 と驚いている様子だ。 いったい本当に何があったんだろうかと気になった俺は、人込みをかき分けて前へと進み出る。 すると、皆が遠巻きに見ていた視線の先には、校門の壁にもたれかかって誰かを待っている様子の黒髪の超絶イケメンの姿があった。 でも、ん？と俺は首を軽く傾げる。 そのイケメンに俺は見覚えがある気がしたから。 いや、いやいやいや、ちょっと待て。 見覚えがあるどころじゃないな。 あんな美形でイケメン、一度見たら忘れられるはずもない。 昨日見たばっかりだ。 「矢谷先輩！？」 そう、そこに立っていたのは赤髪じゃなく黒髪になっていた矢谷先輩だったんだ。 思わず上げた俺の声を聞いて、ぱっと顔をあげた先輩はずんずんと俺のところへとやってくると腕を掴んで。 「ちょっと、来い」 とだけ言うと校門の中へと歩き出していく。 俺は腕を引っ張られる形で先輩の後へとついて行ったんだけれど向かった先は校舎裏だった。 え？何？もしかして再戦申し込まれるとか！？ なんて考えていると、先輩は俺の腕を離してから俺に向き直る。 「勘違いすんなよ？別にお前に言われたからじゃねぇからな？これは負けた俺のけじめみたいなもんだ」 「へ？あ、はい」 「それともう一つ。お前の弱点を探すためにお前の側にいることにしたから」 「はい？」 「それだけ覚えとけ」 首を傾げる俺に向かって矢谷先輩はそういうと、さっさと歩いて行ってしまう。 えーと、つまりはどういうことだ？ 訳が分からずに立ち尽くしていると、後から追いかけてきた相羽に声をかけられる。 「高松、大丈夫か？」 「ああ、うん。別に何かされたわけじゃないから大丈夫だけど。俺の弱点を探すために俺の側にいるからって言われただけで」 「なんだそれは？」 「さぁ？なんだろうな？」 不思議そうな相羽の言葉に俺もやっぱり首を傾げるばかりだった。 けれど、矢谷先輩、黒髪にあってたな。 一段と美形度がアップした気がする。 これから側にいるって言う事は、俺としては理由はともかく、超絶美形を毎日拝めるという事でもあるから悪い話じゃないのかも、と思う事にした。