「へえ、成程。そう言うわけで矢谷もここにいるわけか」 日比谷先輩が、納得したような様子で言ってくる。 今は昼休み。 いつも通り、俺と日比谷先輩と相羽と隆一のメンバーで昼食をとっていたんだけれど、今日はプラスで矢谷先輩も屋上に来ていた。 と言っても、俺達の輪の中に入るわけではなく、少し離れた場所で一人で居るんだけれど。 「みたいです。俺の弱点を見つけるって言われたんですよね」 「ふふ。でも、それだけが理由じゃないみたいだけれどね？」 「え？」 意味ありげな笑みとともに日比谷先輩はそう言うと、矢谷先輩に向かって声をかける。 「ねぇ、矢谷。そんなところで一人で居ないでこっちにおいでよ」 「あ？ほっとけ。俺は一人でいい」 「そう言わずにさ。高松君だって、矢谷も一緒の方が嬉しいよね？」 「え？えっと、そうですね」 急に話を振られて俺は一瞬驚いた後頷く。 遠くから観察されるように見られるより、近くで話が出来たほうがいいに決まっている。 矢谷先輩が加わると、いよいよ本当に美形軍団になりそうだ。 俺を除いてだけれどな。 なんて考えていると、矢谷先輩は軽く舌打ちをしたかと思うと立ち上がり俺達の輪の中へと入ってきた。 近くで見るとやっぱりより一層美形で綺麗な容姿してるなと見惚れてしまう。 「これで満足か？」 「うんうん。折角だから、大勢で食べたほうが楽しいよね」 「ですね。って、うわ、矢谷先輩の弁当、凄く美味そうなんですけど」 日比谷先輩の言葉に頷きながら隣に座った矢谷先輩の手に持った弁当を見て俺は思わず声を上げる。 卵焼きにミニハンバーグにポテトサラダにエビフライにプチトマト、ご飯は俵のおにぎりになっていた。 「あ？こんなの普通だろ」 「ええ？美味しそうですよ！ね、日比谷先輩も見てくださいよ。すごく美味しそうだから」 「ん？どれどれ？」 「あ、俺も、俺も」 「じゃあ、俺も」 「おい！」 俺の言葉に日比谷先輩だけでなく、隆一や相羽まで先輩の弁当を覗き込む。 「おお、美味そう！」 「本当だ。美味しそうだね」 「彩りも綺麗だし。こってるな」 「ほら、ね？」 三人の反応に、俺は得意げになって矢谷先輩の方を見る。 「なんでお前が得意げなんだよ」 「いや、何となく。でも本当に美味しそうですよね」 「…食うか？」 「え？いいんですか？」 「ああ」 頷いて差し出された弁当を見て、俺は少し迷う。 うーん、どれも美味しそうなんだけれど、先輩の食べる分がなくなるのは気が引けるし、二つある卵焼きなら一つもらっても平気かなと考えて。 「じゃあ、いただきます」 と卵焼きを一つ箸でとり、口にはこんで食べた次の瞬間。 「うまっ！」 口中に広がる卵焼きの美味さに思わず声を上げる。 「これ凄い美味いですよ、先輩！」 「…そうか？普通だろ」 「いやいや、本当に美味いです。しっかり味がきいてて甘くなくて」 「甘い卵焼き苦手なんだよ」 「俺もです！本当美味しかったですよ。いいなあ、先輩。こんな美味しい弁当作ってくれる恋人がいて」 「は？」 「え？」 「恋人なんかいねぇよ。んなもん」 「え？ってことはこの弁当は…？」 「…俺が作ったんだ。悪いかよ？」 「えええええっ！？」 矢谷先輩の言葉を聞いた瞬間、俺と隆一と相羽は揃って叫んでいた。 「うるっせぇな！なんだよ！？」 「だ、だだだ、だって、こんなに美味しい弁当を先輩が作ってたなんて…！」 「それに先輩が弁当作るってことに驚いた」 「俺も」 俺達が驚きの声を上げる中、日比谷先輩だけがのんびりとした笑みを浮かべて口を開く。 「矢谷って家庭的なんだねー」 「なっ！？馬鹿か！そんなんじゃねぇよ！ただ、ガキの頃から飯は自分で作らねぇと食えなかったからってだけだ！」 「それでも、美味しいお弁当が作れてるんだから、家庭的だよね。高松君もそう思うよね？」 「え？はい、そうですね。先輩はいい奥さんになれそうです」 「ばっ…！？てめぇはまたんなふざけたこと言いやがって！！」 本気でそう思って言ったのに、何故か矢谷先輩は俺の両頬を引っ張ってふににーっと思いっきり横に伸ばしてくる。 「ふぇ、ふぇんふぁい！いひゃいいひゃい！！」 「うるせぇ！痛いようにやってんだ！」 「ひょんふぁ～」 なんて、俺達のやり取りを見て日比谷先輩は楽しげに笑い声をあげる。 「あはは、二人とも仲良しさんだねー」 これのどこが仲良しなんですか！？ と心の中で、叫んだ時だった。 「随分と楽しそうだな」 そう、声が聞こえて、瞬間、日比谷先輩の顔が強張る。 甲が聞こえたほうへと視線を向けると、そこには一週間ほど前に日比谷先輩に絡んでいた超絶美形軍団の一人が扉にもたれかかるようにして立っている姿があった。