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第20話
「優里。話がある」
「僕には話す事なんて何もないよ」
日比谷先輩の口から放たれた言葉はやはり、先程までの穏やかで優しいものではなく氷のように冷たい口調で。
俺と相羽は前回のことがあったから耐性はあったものの、初めて聞く隆一は驚きに軽く目を見開いていた。
矢谷先輩は特に我関せずといった様子で弁当を食べていたけれど。
「優里」
「しつこい男は嫌われるって教えられなかったのかな?」
「…なぜ、そこまで俺達を避ける?俺達が何かしたのか?」
「別に。君達といる事に飽きただけだよ。今は彼らといるほうが楽しいんだ。邪魔しないでもらえるかな?」
淡々とした冷たい口調で告げる日比谷先輩はどこか苦しそうで悲しそうに俺には見えて、気が付けば俺は二人の話に割って入っていた。
「優里。俺は」
「あ、あの日比谷先輩!」
「えっ!?何?」
「そう言えば、部活の顧問の先生に呼ばれてるって言ってませんでしたっけ?もう30分になりますけど、行った方がいいんじゃ?」
「え?あ、そうだったね!そう言えば先生に呼ばれてたんだ。すっかり忘れてたよ!有り難う、高松君。思い出してくれて助かったよ。それじゃあ、僕行くね!」
「はい」
「優里…!」
先輩は急いで荷物をまとめると超絶美形の横をすり抜けて階段を下りて行ってしまう。
残された超絶美形は俺の方を一度睨むと足早にその場を立ち去って行った。
あれ?もしかして俺目をつけられた?
と思った瞬間、矢谷先輩の呆れたような声がする。
「ほっときゃいいのに」
「いや、でも日比谷先輩、どこか辛そうでしたし」
「あいつら、前はうざいぐらいに仲が良かったけどな。付き合ってるって噂されるぐらいには」
「そうなんですか!?って、先輩よく知ってますね」
「中等部の時、クラスが一緒だったからな」
「成程」
「でもその話は俺も聞いたことがあるな」
「相羽も?」
「ああ、吹奏楽部にも何度か迎えに来ていたこともあったし。日比谷先輩の恋人だと部員もみんな噂してた」
矢谷先輩と相羽の言葉にそれならどうして、日比谷先輩はあんな態度をとるようになったんだろうと考える。
純粋に嫌いになった?
いや、それはないと思う。
本当に嫌いになったならあんなに辛そうな様子は見せない筈だ。
どちらかというと嫌いな風を装っているように俺には見えたんだ。
きっと、日比谷先輩の中で何かそうしなければならない理由があるんじゃないかと俺には思えていた。
放課後。
今日は隆一も相羽も部活だという事て一人で寮まで帰ろうと昇降口に向かうと。
「よう」
「あれ、矢谷先輩?」
そう、矢谷先輩が靴箱の前に立って待っていた。
「お前、今から暇か?」
「え?はい、暇は暇ですけれど」
部屋に戻っても同人誌を読んだりBLゲームをするだけだからな。
頷く俺を見て矢谷先輩も軽く頷くと。
「んじゃ、ちょっと面貸せ」
「はい?どこか行くんですか?」
「いいからついてこい」
それだけ言って歩き出ししてしまう矢谷先輩の後を慌てて追いかけていく。
先を歩く先輩のスピードに歩幅を合わせながらついていくと、たどり着いたのは落ち着いた雰囲気の小さめのカフェだった。
「先輩、ここに来たかったんですか?」
「いや、ここで用があるのは俺じゃねぇよ」
「え?」
どういう事だろうか?
不思議に思いつつも、扉を開けて中に入っていく矢谷先輩の後に続いて店の中へと入ると。
「あ、こっちこっち!」
という声と共に奥の方の席から手を振る日比谷先輩の姿が見られた。
「あれ?日比谷先輩?」
「ったく、俺を使いっぱしりにするとかいい根性してやがる」
驚く俺とは反対に、矢谷先輩はぶつぶつと言って日比谷先輩の方へと歩いていく。
俺もとりあえずその後を追って日比谷先輩のところまで向かった。
「有り難う、矢谷。高松君を呼んできてくれて」
「チッ…約束通り、珈琲いっぱい奢りだからな」
「勿論。なんだったらデザートも奢るよ?」
「いらねぇ。甘いもんは好きじゃねぇ」
そう言って、矢谷先輩は日比谷先輩の向かいに腰を下ろす。
俺も何となくその隣へと腰を下ろつつ、日比谷先輩に問いかける。
「呼んで来てってことは、日比谷先輩が俺に用事があったんですか?」
「うん。そうなんだよ。ちゃんと話しておこうと思ってさ」
「え?」
「この間の事と今日の事、気になっているんじゃないかと思って」
「あ…」
「ふふ、やっぱり気になるよね?」
「はい。先輩辛そうにも悲しそうにも見えましたから」
「そんなふうに見えたのか。うん、一度ちゃんと誰かに話して、僕自身も心の整理をつけたかったしちょうどいい機会かもしれないな」
「言っとくけど俺は興味ねぇからな」
「矢谷先輩!」
「はは、いいよそのぐらいで聞いてくれた方が僕も話しやすいし。だから高松君も気を楽にして聞いてね」
「は、はい」
笑いながら言う日比谷先輩の言葉に俺が頷くと日比谷先輩はゆっくりと口を開いて語りだした。
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