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第21話

「そうだね。どこから話そうかな。そうだな。中等部の時からにしようか」 そう切り出すと先輩はゆっくりと話をしてくれた。 中等部時に見目麗しい生徒の憧れ的な人達ばかりのグループがあったこと、そして、先輩はそのグループの一員ではなかったけれど、グループの人達に好かれていていつも共に行動していたことを。 「その時の僕は有頂天だったよ。皆の憧れの的に好かれてちやほやされて、自分は特別な存在なんだ。なんて、勝手に思い込んでたんだ。昨日話をしに来てた彼、久瀬川 圭(くぜがわけい)とは特に仲が良かったんだよね」 「付き合ってたんですか?」 「ううん。付き合ってはいなかったけれど…でも、そうだね。好きだったよ。それに彼からの好意も感じてた。両思いだって思ってた。でもね、そんな時にあの子が現れた」 「あの子?」 「最初に久瀬川と一緒に声かけてきたこのこと覚えてる?」 「ああ。あの天使ちゃん!っとと…」 思わず心の中で思っていたことを口にすると、日比谷先輩はくすりと笑みをこぼす。 「確かに天使って感じだもんね。わかるよ」 「すみません」 「どうして謝るのかな?彼はね、桜木 奏(さくらぎかなで)君と言ってね。中学二年の時に転入してきた子でね。すごく可愛い子が転入して来たって中等部でも噂になったよ。そのうち、グループの一人が桜木君と知り合いになってね。グループの皆にも紹介された。彼ね、すごくいい子なんだよ。可愛くて性格もいい、すぐに皆に愛されるようになってね。ちやほやされるようになった」 そう告げると、日比谷先輩はコーヒーを一口飲み一息つく。 「僕の位置がとられると思ったよ。明らかに皆の関心が僕より桜木君に向けられるようになった。久瀬川もそれは同じで、僕は焦って自分の位置をとられたくなくて自分を偽って必死で気に入られる性格を演じてた。けれど、それにも限界はあるよね。どんなに努力しても自然体で皆の目を引き付ける愛される桜木君には適わなくて。限界を感じたよ。それに自分を偽るのも辛くなってきてさ。もういいやって思ったんだ。無理して自分を偽ってまで未練たらしくすがるのが嫌になって、それで距離を置くようになったんだよ」 「そんなことが…」 「馬鹿だったよね。僕。どうしたって、僕は僕にしかなれないのに。彼らに冷たく当たるのは、僕の事嫌って離れてくれたらという思いと無理をしていた自分を思い出して嫌になるからなんだ」 「日比谷先輩…」 そう言って微笑む日比谷先輩はやっぱりどこか寂し気で、俺はなんて言ったらいいかわからず言葉に詰まる。 隣で矢谷先輩は普通にコーヒーを飲んでいたんだけれど。 「御免ね、こんな話して。でも、僕といたらまたあんな場面があるかもしれないからさ。ちゃんと事情は説明しておきたかったんだ」 「いえ。話してもらえて嬉しかったです。…あの、先輩。俺、今の日比谷先輩の事好きですからね?えっと、変な意味じゃなくて友人として」 「ふふ、分かってるよ。有り難う」 「いつか先輩も運命の恋に出会えると思うんです!だから、その、諦めないでください。俺も協力しますから!」 「運命の恋か。ふふ、そうだね。諦めずに少し頑張ってみようかな」 「それがいいですよ」 うんうんと頷く俺の隣で矢谷先輩は相変わらず我関せず状態でコーヒーを飲んでいたんだけれど。 「運命の恋と言えば」 と、日比谷先輩が意味ありげな笑みを浮かべて告げてきた。 「矢谷は運命の恋の相手に出会ったみたいだよね?」 「ぶはっ!?」 「ええっ!?」 その言葉に矢谷先輩は飲んでいたコーヒーを吐き出し、俺は驚きの声を上げる。 「げほっ!げほげほっ…!日比谷…!てめぇ、何を!?」 「本当ですか矢谷先輩!?」 顔を赤くして声を上げる矢谷先輩に俺は詰め寄る。 これはまた新しい生BLが見られる気配!? そう思うとわくわくしつつ、矢谷先輩の方を興奮がちに見つめる。 「相手はどんな人ですか!?やっぱり矢谷先輩に釣り合うような美形ですか!?美形ですよね!?」 「ちょ…おまっ、なんでんな興奮してるんだよ!?」 「だって、矢谷先輩の事ですから気になりますよ!!」 こんな超絶美形イケメンの好きになる相手のこと気にならないわけがない。 なんて思いを込めて力説すると。 「んなっ!?」 さらに顔を赤らめる矢谷先輩に俺は首を傾げる。 「あはは、まぁ、確かにかなりの美形には違いないよね」 「そうなんですか!?って、日比谷先輩は誰だか知ってるんですか?」 「そうだね。知ってるよ。でもその子は自分が美形だって気づいてないんだよね。残念ながら」 「おい、日比谷!てめぇ、いい加減に!」 「あ、あと年下だよ」 「一年なんですか!」 という事は先輩×後輩か、いや矢谷先輩凄い美人でもあるから後輩×先輩も余裕であるな。 あるある美味しい! でも、相手は自分が美形だって気づいてないってことは矢谷先輩の想いにも気づいてないのか勿体ないな。 そう考えて俺はガシッと矢谷先輩の両手を掴んでいた。 「矢谷先輩っ!!」 「うおっ!?な、なんだよ!?」 「俺、先輩のこと応援しますから!先輩の恋が成就するように全力で!!」 「~~~っ!!知るかぼけ!!帰る!!」 「あっ、先輩!?」 心からそう言ったつもりだったのに、矢谷先輩は何故か怒った様子で席をたつと鞄を持って店を出て行ってしまった。 「ふふ、大丈夫だよ。照れてるだけだから」 「そうでしょうか?」 「まぁ、でも、前途多難ではありそうだね。…本人全く気づいてないし」 後半小さく呟かれた言葉は聞き取れず、軽く首を傾げる。 「ううん。なんでもない。そうだ。さっきの話、相羽君達にも話しておいてくれるかな?彼らも驚かせてしまったからね」 「あ、はい。わかりました。先輩、俺達は先輩の味方ですからね?」 「うん。有り難う」 嬉しそうに微笑む先輩を見て俺も笑みを浮かべ返したのだった。

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