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第22話

「そうか、そんなことが…」 「うん。隆一には、相羽の方から伝えておいてくれるかな?」 「ああ、後でメールで伝えておく」 いつも通り、朝の時間に出会った相羽に昨日の事を伝える。 「日比谷先輩にもいろいろあるんだな」 相羽の言葉に頷いた俺は、うーんと悩む声を上げた。 「どうかしたのか?」 「いや、日比谷先輩の事、どうにかできないかなと思って」 「それはなかなか難しいだろうな。本人の心の問題だから、俺達がどうこう言って出来るものでもないし」 「確かにそれはそうなんだけれどさ。あーあ、日比谷先輩にも相羽みたいに運命の相手が現れないかなー」 「そこで俺を挙げるなよ」 「ははっ、隆一とは上手くいってるのか?」 「まぁ、それなりには」 微かに赤くなりつつ答える相羽に俺はにまにまとした笑みを浮かべる。 相羽はツンデレなところがあるから、こういう言い方をするっていう事は上手くいってるってことだよな。 「ところで、相羽」 「なんだよ?」 軽く首を傾げる相羽の耳元で手を当てながら小声で問いかける。 「もう、セックスはしたのか?」 「っ!!?」 途端に色白な相羽の顔が、ぶわわっと真っ赤に染まる。 「な、な、な!?」 金魚の口みたいにパクパクと口を動かす相羽を見て、俺はにんまりとした笑みを浮かべながら言葉を続ける。 「ほら、だって隆一はずっと待たされてたわけじゃん?実ったからには感情が高ぶってたまらず…とか?」 「~~~っ!!」 次の瞬間、俺はバシンッと鞄で思いっきり後頭部を殴られる。 「いっで!?」 「自業自得だ!馬鹿!」 「ひでぇ…純粋な興味を口にしただけなのに」 「どこが純粋だ。どこが!」 「ちぇっ、まぁ、いいや」 今度隆一の方に聞こう。 そう考えて、俺は気を取り直す。 それと同時に昨日の事を思い出して、気になることがあったのを思い出した。 「そう言えば」 「今度はなんだ?」 「矢谷先輩の運命の恋の相手って誰だと思う?」 「え?」 「え?」 「え?」 「え?」 「お前、本当に気づいてないのか?」 「気づいてないから疑問に思ってるんだろ?」 「……矢谷先輩に同情するな」 「え?」 同情するような相手だって事だろうか。 なんて不思議に思っていると、相羽は前を見て軽く俺に肘うちしてくる。 「そう言うのは」 「ん?」 「直接、本人に聞いた方がいいと思うぞ」 そう言って相羽が、視線で示した先には。 「あれ、矢谷先輩」 「よう」 矢谷先輩がこの間と同じように校門の壁にもたれかかるようにして待っている姿があった。 「おはようございます。矢谷先輩」 「おう。高松今、ちょっと時間あるか?」 「俺ですか?HRまでにまだ時間もありますから大丈夫ですけど」 「なら、ちょっと面貸せ」 「あ、はい」 「じゃあ、俺は先に行ってるな」 「ああ、また昼休みに」 先に自分の教室へと向かう相羽に手を振って見送ってから矢谷先輩へと向き直る。 「それで、どこに行くんですか?」 「そうだな。この時間なら屋上でいいか」 「分かりました」 矢谷先輩の言葉に頷いて、俺達は屋上へと向かう。 屋上へたどり着くと、誰もいないのを確認して先輩はフェンスへともたれかかり、俺も側まで歩いていく。 「ここなら誰かに聞かれることもねぇだろ」 誰かに聞かれたら駄目な話? となると、告白か恋愛相談が相場だけれと。 先輩が俺に告白とかは絶対にないし、となると。 「もしかして、恋愛相談ですか!?」 嬉々として問いかけたのに。 「ちげぇよ!!」 と、即答されてしまう。 折角先輩の好きな人が誰か分かるかと思ったのに残念だな。 「俺の事は良いんだ。俺の事は!そうじゃなくて、日比谷の事だよ!」 「日比谷先輩のこと?」 「どうせ、何とかしたいと思ってんだろ?」 「え!?どうしてわかったんですか!?」 俺が思ってることがわかってたなんて、矢谷先輩ってもしかしてエスパーなのか!? 驚く俺を見て、矢谷先輩はやっぱりな、といったような表情を浮かべる。 「そうだと思ったぜ。お節介そうだもんな、お前」 「うぐっ…」 当たってるだけに言い返せない。 でも、ついついお節介になってしまうのは仕方ないじゃないか。 だって、幸せそうな人の姿を見るのは好きなんだ。 俺まで幸せな気分になるしさ。 それが男性同士の恋愛での幸せな姿だともっと幸せになる。 BLは俺の生きがいなんだから、それを見るためならお節介にもなるというものだ。 「まぁ、別に悪くはねぇと思うけど」 「本当ですか!?」 視線をそらしつつ言われた言葉に、俺はぱぁっと顔を輝かせる。 「変わり身はえぇな!?」 「だって、先輩にうざい奴って思われてないって事ですから、嬉しいですもん!」 「なっ!?」 「俺、矢谷先輩に嫌われたくないですから!」 にっこりと笑ってそう告げる。 矢谷先輩みたいな超絶美形イケメンと知り合う機会なんてそうそうないし、嫌われるのは悲しいもんな。 俺の言葉に矢谷先輩は一瞬目を見開いたかと思うと俺から思いっきり顔をそらして。 「こいつ、わざとか!?わざとなのか!?」 小声で何かぶつぶつと言っていたけれど、よく聞こえずに軽く首を傾げる。 「先輩?どうかしましたか?」 「なんっでもねぇよ!それより日比谷の事だろ!?」 「あ、そうでした」 「ったく。…俺が見る限りだが、あいつらすれ違ってるだけだと思うぜ?」 「え?」 「何とかしてぇのなら、一方の話を聞くだけじゃなくて、もう一方の話も聞くんだな」 そう言うと、矢谷先輩はポケットから一枚の紙きれを手渡してくる。 そこには店の名前と時間が書かれてあった。 「これは?」 「そこに、久瀬川の奴呼び出しておいた。あとは自分で話を聞くなりしろよ」 「っ!?あ、ありがとうございます!」 確かに、真実を知るには一方の話だけを聞いてもわからないよな。 両方の話を聞いてこそわかることもあるし、それによって日比谷先輩が幸せになれるかもしれない。 我関せずを装っていたけれど、矢谷先輩はちゃんと話を聞いてそこまで考えてくれてたんだな。

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