「先輩って格好いいですね。外見は勿論ですけれど、中身が」 「んだよいきなり？」 「いや、本当にそう思ったんですよ」 「なんだよ、惚れたか？」 ニヤッと笑って先輩は冗談交じりに告げるので俺は笑みを浮かべて頷く。 「はい、惚れました！」 「ぶっ！？てめぇはまたんなことを～～～っ！」 「ふええええっ！？」 また思いっきり両頬を引っ張られてしまい。 なんでっ！？先輩から振ってきたのに！？ と涙目になって訴える。 漸く手を離した先輩は、赤くなった顔を隠すように咳払いをして言葉を放つ。 「とにかくだ。俺は行かねぇから、話聞くなら一人で行って来いよ」 「え？先輩は行かないんですか？」 「ああ、別に俺は興味ねぇし」 「そうですか。わかりました。ちょっと残念ですけれど一人で行ってきますね」 「ああ」 「でも先輩、本当は優しいんですね」 「あ？」 「興味ないのに日比谷先輩のために話を取り付けてくれたんですから」 「は？」 やっぱり、矢谷先輩も矢谷先輩なりに日比谷先輩のこと気にしてたから行動したってことだもんな。 ってことは、あれ？ちょっと待てよ。 矢谷先輩は多分どうでもいい相手の事なら自分から動かない性格のような気がする。 つまりそれは、日比谷先輩の事をどうでもよく思ってないってことだよな。 昨日だって、日比谷先輩に言われたから俺を呼びに来たわけだし。 つまり、という事は。 矢谷先輩は日比谷先輩の事をどうでもよくなく思ってる。 つまり、矢谷先輩は日比谷先輩の事を気にしてる。 そして、矢谷先輩には運命の恋の相手がすでに見つかっているという事からすると。 矢谷先輩の運命の恋の相手って言うのは日比谷先輩だったって事か！ 成程、成程。 日比谷先輩ならば美人系の美形だし、矢谷先輩と十分釣り合う、釣り合う。 矢谷先輩×日比谷先輩 うん、見目麗しいカップルで美味しい。 「矢谷先輩！！」 「うおっ！？んだよ！？」 「矢谷先輩の運命の恋の相手って、日比谷先輩だったんですね！」 「はあ！？」 「大丈夫です！先輩達なら全然お似合いですよ！俺、応援しますから！」 張り切って言った次の瞬間。 ゴンッ。 「いだっ！？」 俺は脳天に強烈な刺激と痛みを感じて声を上げる。 矢谷先輩に無言で拳骨をくらったのだ。 「こんの、大ぼけ野郎！」 「ええっ！？」 矢谷先輩はそれだけ言うと、すたすたと歩いて屋上から出て行った。 「先輩！？せんぱーい！！」 後に一人残されたのは、殴られた痛みで涙目になりつつ立ち尽くす俺だけだった。 「あははははははっ！」 そして昼休み。 俺の隣にはむすっとした様子の矢谷先輩と、そしてその向かいにはお腹を抱えて大笑いしている日比谷先輩の姿があって、その周りにやれやれといった様子の相羽とよくわかっていない様子の隆一がいたわけだけれど。 朝の事、と言っても、久瀬川先輩の事は日比谷先輩には黙っておいた方がいいので、矢谷先輩の運命の恋の相手が日比谷先輩だと言ったら殴られて怒って去られたことを話したことから、日比谷先輩に大笑いされていた。 「あはははははっ！駄目だ、おかしすぎるっ！」 日比谷先輩は、涙目になりながらひーひー呼吸困難になりかけて笑っている。 俺そんなにおかしいこと言ったのかな？ 相変わらず矢谷先輩はむすっとした様子で俺の隣で弁当を食べていたんだけれど。 「先輩、そんなにおかしいこと言いましたか。俺？」 「だって、どうして矢谷の恋の相手が僕ってことになるのかな？」 「いや、それは」 「もし僕だとしたら、昨日のうちにあんな言い方しないでちゃんと言っていると思わない？」 日比谷先輩の言葉に、それは確かにそうかもしれないと俺は納得する。 よく考えたら、日比谷先輩ならあんな含みを持たせる言い方をする必要はなかったはずだ。 「それに、僕、言わなかったっけ？」 「え？」 「一年だよって」 「あ」 その言葉に俺ははっとして弁当を食べる手を止める。 そうだった！確かに一年だって言われてた！ 「ね？僕だとしたらおかしいだろう？」 「そうでした」 という事は本当に俺の完全な勘違いだったんだな。 そう理解して、俺は無言で弁当を食べている矢谷先輩の方へ向きなおる。 「矢谷先輩、すみません。変な勘違いして」 「…別に。勘違いだと分かったんならもういい」 「本当ですか？なら、ついでに相手が誰なのか」 「言うと思うか？」 「ですよねー」 即答されて、俺は乾いた笑みを浮かべる。 でも、矢谷先輩、昨日から否定はしてないんだよな。 今もいないならいないで先輩の性格上きっぱり言いそうだし。 という事は、相手はいるって事だろうから。 ううっ、気になるな。 なんて俺の気持ちを読み取ったかのように、日比谷先輩が言ってくる。 「まぁ、矢谷の行動ずっと見てたらわかるんじゃないかな？」 「日比谷」 すぐに矢谷先輩に余計なことは言うなというように睨まれて、はいはいと口を閉じた日比谷先輩だったけれど。 これからは矢谷先輩の行動をよく観察しようと弁当を食べながら俺は思っていた。 どうしても矢谷先輩の恋の相手が誰なのかが気になったから、何故気になるのかはわからないけれど気になるものは気になるのだから仕方ない。 きっと矢谷先輩みたいな凄いイケメンで超絶美人が好きになる相手だから相手も凄い美形でイケメンなんだろうと思うからだろうと納得していた。