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第24話
放課後。
俺は矢谷先輩からもらった紙を確認して、時間と場所をもう一度確認する。
17時に駅前のカフェ『シフォン』で、だな。
よし、と頷いて鞄をもって教室を出る。
もう少しで、昇降口というところで。
「あ、高松君だ」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺はびくぅっと体を跳ね上がらせる。
振り返った先に立っていたのは。
「ひ、日比谷先輩!?」
「あはは、すごい驚きようだね」
そう、そこには日比谷先輩の姿があったんだ。
今からまさに、日比谷先輩の事で久瀬川先輩に会いに行くところなので思わず驚いてしまった。
「今から帰りかい?よかったら一緒に寮まで帰ろうよ」
「え?先輩部活は?」
「毎週木曜日は休みなんだ」
「そ、そうなんですか」
不味い、これは不味い。
一旦寮に帰っていると約束の時間に間に合わなくなってしまう。
けれど、約束があることを日比谷先輩に言うわけにもいかないし。
どうしたものかと考えていると。
「おい、日比谷」
突然、矢谷先輩の声が聞こえて俺達は揃ってそちらへと視線を向ける。
「あれ?矢谷どうしたの?」
「ちょっと話があるから、面貸せ」
「え?僕に?高松君じゃなくて?」
「ああ」
頷く矢谷先輩を見て、俺はピンッと来た。
多分、矢谷先輩は俺が困っているのを見て助け船を出してくれたんだろう。
今から誰に会いに行くのかを唯一知っているのが矢谷先輩だったから。
「そっか。じゃあ、御免ね。高松君。ちょっと行ってくるよ」
「いえ。お気になさらず。また明日ですね」
「うん。また明日ね」
そう言って日比谷先輩は俺に手を振ると矢谷先輩の方へと歩いていく。
俺は矢谷先輩に向かって、有り難うございますと口パクで伝えると、さっさと行けというように手を振られた。
そのまま俺は、昇降口で靴を履き替えると約束の店へと急ぐ。
カフェに辿り着いたのは約束の時間の5分前で。
カフェの中へ入って辺りを見回すと、久瀬川先輩は既に来ていて奥の方の席に座っていた。
俺は、呼吸を整えると久瀬川の方へと向かって歩き出す。
「こんにちは、先輩」
「ん?お前は、優里と一緒にいた…」
「一年の高松 悠斗と言います」
「高松…何故お前がここに?俺は矢谷に呼び出されていたはずだが」
「矢谷先輩は俺のために先輩を呼んでくれたんです」
「お前のために?」
怪訝そうな様子で首を傾げる久瀬川先輩に俺は頷きつつ、向かいの席に腰を下ろす。
「俺が先輩から話を聞きたかったから」
「話?」
「はい、先輩がどうして日比谷先輩につきまとうのか」
「っ…!」
「俺は、日比谷先輩がどうして先輩達に冷たくあたって避けるのか、知ってます」
「なんだって?」
「日比谷先輩から直接聞きましたから」
「優里から…」
「でも、日比谷先輩の話だけ聞いてもきっと真実は見えてこないから、久瀬川先輩の話も知りたかったんです。日比谷先輩の話だけが本当の事だとすると、先輩が日比谷先輩につきまとう理由はないように思えましたから」
真剣な表情で話す俺の言葉を久瀬川先輩も真剣な表情で聞いていたがやがてゆっくりと口を開く。
「教えて欲しい。優里が何を思って俺達から、俺から離れて行ったのか」
「分かりました」
先輩の言葉に俺はゆっくりと頷いて、日比谷先輩から聞いた話を口にする。
久瀬川先輩は黙って俺の話に真剣に耳を傾けていた。
うん、真剣な表情を見ると、またイケメン度が増すな。
なんてついつい癖で思ってしまったけれど。
「…というわけで、日比谷先輩は、皆の心が桜木君に移ってしまった事を知って、無理をする自分にも疲れて、皆から離れる事にしたんです」
「優里が…そんなことを…」
「久瀬川先輩の事も自分から桜木君に気持ちが移ったんだと日比谷先輩は思ってます。それがもし本当なら、日比谷先輩につきまとうのはやめてそっとしておいてあげて欲しいんです」
「っ…違う!俺はっ…!俺は、今でも優里の事が好きだ…!」
久瀬川先輩の言葉を聞いて俺は納得する。
日比谷先輩の話を聞いた時に、少しおかしいなとは思ったんだ。
もし久瀬川先輩に日比谷先輩への想いが本当になくなったのなら、つきまとう理由はないはずだから。
「正直、他の奴らの事は俺にはわからないし、桜木はいい奴だ。惹かれている奴は確かにいるのかもしれない。けれど、俺は優里がいい。昔からずっと想ってきたんだ。今だって、その想いは変わっていない」
そう言った先輩の瞳はとても真剣で嘘はついてないと俺には思えた。
だから。
「本当に日比谷先輩のこと今でも好きなんですね?」
「ああ。俺には優里だけだ」
「わかりました。なら、その想いをちゃんと日比谷先輩に伝えてあげてください。日比谷先輩、平気な振りをしてるけれどきっと今もつらいと思うんです。ちゃんと誤解を解いてあげないと」
「それは勿論だが。…俺と話をしてくれるかどうか」
「それは任せてください。俺が協力します!」
「お前が?」
「はい。日比谷先輩には幸せになって欲しいですから。明日の昼休み、俺が日比谷先輩を体育館裏に連れていきますから。先輩はそこで待っててください。そこで二人だけでちゃんと話をしてください。日比谷先輩が冷たい態度とってもそれは本心からじゃないですから」
「…そうか。わかった。有り難う」
「いえ。俺も日比谷先輩が心配だったので」
「優里はいい後輩を持ったんだな」
久瀬川先輩に微笑んで告げられて俺は少し照れる。
とにかく、決戦は明日だ。
日比谷先輩達が幸せになるためにも、明日はちゃんと行動しないと、と俺は気合を入れなおしたのだった。
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